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 敗戦から75回目の夏が来た。茶道裏千家前家元の千玄室さん(97)は学徒出陣し、特攻隊員となった体験を持つ。戦後、六十数カ国を訪問し、茶道を通して世界平和の実現に向けて活動してきた大宗匠は、自分にとっての戦争はまだ終わってないと言う。平和とは何なのか。どうすれば手に入れられるのか。他人同士でも家族のようになる場づくりを目指す藤代健介さん(32)、伝統文化を通じて心の豊かさを提案する矢島里佳さん(32)と語り合った。

拡大する写真・図版茶道裏千家前家元の千玄室さん(中央)と矢島里佳さん(左)、藤代健介さん=7月21日、京都市上京区、筋野健太撮影

沖縄の海でお茶を点てる

 千 今年は戦後75年。沖縄へ慰霊に行ってきました。慰霊祭は毎年開いています。ご遺族も少なくなりましたが、お連れして、お茶を点(た)てて一服差し上げ、祈念してきました。私も沖縄のどこかの海で死んでいたはずでした。生き残って忸怩(じくじ)たる思いです。毎回のことですが、戦友の名前を呼んで拝みました。

 藤代 大宗匠は戦争体験をされた上で、国連などで平和活動をしています。平和に対するとらえ方、リアルな平和観をうかがいたい。平和とは何でしょうか。

 千 私は戦争末期に大学生でした。当時は20歳になると徴兵検査を受けなければならなかったのですが、大学生には徴兵猶予という制度がありました。願いを出して許されると、卒業するまでは徴兵検査を待ってもらえる。兵隊のことはあまり考えなくていいと思っていました。

 私の家は茶の家元ですが、武家でもあった。私は大正生まれでもあり、小さい時から、武家の作法で、茶の家の跡継ぎとして大変厳しく育てられました。背が高くて、乗馬もしました。体には自信があった。

 東条内閣によって、理工系はいいが、法文系の学生は徴兵猶予を取り消され、1943(昭和18)年、徴兵検査を受けました。体が良かったので合格しました。

拡大する写真・図版千玄室さんは常に柔和だが、その眼光は鋭い

 親しい仲間10人のうち8人は陸軍へ行った。フィリピン、中国、旧ソ連などへ行って、ほとんど亡くなりました。2人は海軍に。私は海軍の適性検査を受けました。通信、航空、主計などのコースに分かれていて、私は目が良かったので航空隊にとられました。土浦(茨城県)の海軍航空隊の予備学生となり、2カ月半の士官教育を受けました。

 海軍には「型相判断」というのがありましてね。最終検査の時、名前を呼ばれて前に出ると、じっと顔を見られた。左右、後ろ、手を見て、何か書いている。何故こんなことをするのか分隊長に聞くと、「大学から来た連中は貴重な人材だから、事故で死んでもらっては困る。だからそれを見てもらっているのだ」と言う説明でした。

 配属先の発表は3日後にありました。私は大学時代に水上機の操縦訓練を受け、単独飛行もしていたので、水上機に行くと思ったら、「陸上機に回ってくれんか」と隊長から言われてね。「水上機ならすぐに役に立てます」と3度言いましたが、「上からの指示だからダメだ」と言われました。隊長は「言いたくないが、お前には死相が出ている」と言う。日本大学出身で後に俳優になった戦友の西村晃にそれを話すと、彼は「出ていない」と言ってくれましたが、命令に従って、私は徳島海軍航空隊へ行きました。

 日本の飛行機は優秀でねえ。機体が軽金属で造られていたので、スピードが出る。だが、操縦席の背もたれが薄くて、後ろから撃たれたら弱かった。私が乗った偵察機は大型機で、1年3カ月かかる教育を10カ月で受けた。殴り飛ばされ、大変な毎日。訓練は死にものぐるいで、「ああ、よく今日も生きていたなあ」というものでした。

 そうしたなかで、飛行機と一緒に死ぬのだと自己認識しました。いろんな意味で悲しく、苦しい。自分で気合を入れ、朝来て夕方まで訓練。昼飯なんか食べている時間もないほどでした。

 飛行機の操縦では、上がっていく高度、時速、風速、風の流れなどを計算に入れなければならない。操縦しながら、高度計や速度計、油圧計などの計器板を見ないといけない。操縦のこつはお茶のお点前に通じるところがあると思いました。

終戦の5カ月前に特攻隊を「熱望」

 特殊訓練もしました。44(昭和19)年12月。高度1500メートルから突っ込んでいく訓練でした。45(昭和20)年1月ごろになると、どうもきな臭いなと思ってね。我々も特攻に回されるのではないか。

 案の定、3月に私たち搭乗員2…

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