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 「読むべからず」

 今年3月、そう書かれた紙箱を孫が蔵で見つけた。

 中身は、手紙約40通の束。朱色の判で「軍事郵便」「検閲済み」とも。

 大事なものなん?――

 いぶかる孫に、杉本智恵子さん(97)=滋賀県甲賀市=は即答できなかった。

 それは80年間封印した、初恋の証し。今は亡き夫にも秘めてきたものだった。

 1923年、農家の長女として生まれた。小学校の入学式では皆が着物の中、1人洋服を着ていた。

 37年、父が中国へ出征した。村人の万歳を物陰で聞いた。祝福したかったが、涙が止まらなかった。

 その頃、授業で兵士に手紙を書くことになった。地元の軍人が1人ずつ割り当てられ、智恵子さんは、西浦治一郎(じいちろう)という人の担当になった。

 6歳年上の21歳、歩兵。定型文そのままに書き送ったのに、返事は自分に寄り添ってくれる内容だった。

 『お父様も御出征の由(よし)、いかに御国のためとはいえ さぞお寂しいでしょう』

 父とは別部隊。やりとりは続き、押し花を送った。

 『美しい郷里の花びらをお入れ下さるるはほんとうに銃後の女性 大和撫子(やまとなでしこ)そのもの(中略)四方は敵ばかり』

 京都市内の旧制専門学校(現在の短期大学)に進学後も、文通を続けた。彼は帰国した際、学校に来てくれた。背は少し見上げるほど。実直そうだった。

 「学校が終わったら、午後5時に京都駅で会いませんか」。

緊張しながら駅に向かった。落ち…

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