中島美鈴
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片付けのやる気スイッチを押す方法は三つありますが、今回はその一つ、課題の小分けについてです。まずは「1分だけ」や「ドアまわりだけ」からでも大丈夫です。具体例をあげながら、臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。
ここ数回は、先延ばしの克服についてご紹介しております。
ADHDの主婦リョウさんは、子ども部屋に割り当てたはずの部屋が、子どものおもちゃや服、書類、そして謎の荷物で占領され、今や足の踏み場もなく、ドアも半分しか開かないというひどい状況になっています。リョウさんの夫もリョウさんと似たタイプで、一向に片付ける気配はありません。
これまでに、ADHDの人が先延ばしを克服するために、すぐに課題に取りかかるためのやる気スイッチを押す方法を三つお伝えしてきました。今回はその一つめの「すぐに成果が出やすい課題に小分けにする」について詳しくお伝えしていきます。
やる気スイッチを押すポイント
①すぐに成果が出やすい課題に小分けにする
すぐに結果の出そうな課題に魅力を感じるのがADHDの報酬系と呼ばれる脳の特徴です。この特徴に合わせて、課題を自分の集中できる単位に分解します。「このぐらいで終わるのなら、たとえ朝飯前でもやってもいいかも」ぐらいの時間がいいでしょう。たとえば、3分とか、1分でもよいです。
リョウ「片付けを1分だけしてちょうだいって言われたら、うん、1分でいいのなら。。。と少しマシな気持ちになるかもしれません」
リョウさんは理想の子ども部屋を完璧に作るには1週間は必要ではないかと考えていましたので、「1分だけ片付けて」と言われると、ずいぶんハードルの下がる思いでした。
このように時間数でも小分けにしてもいいのですが、エリアで分けるのもよいでしょう。
たとえば、リョウさんの場合ですと、「部屋全体」ではなくて、「ひとまずドアまわりだけ」片付けるというのはどうでしょう。ドアがひとまず開くようになれば、その後の片付けの際にも助かりますね。
それでもおっくうならば、個数で分けてもいいでしょう。「三つだけ捨てる」と決めてしまうのです。たった三つだけ。ごみの日に、ごみ袋の口を縛る前に、勇気を出して子ども部屋(納戸)のドアの隙間から、三つだけ捨てられるものを引っ張り出すのです。それだけ。それ以上片付ける必要はありません。三つだけというのがポイントです。ただ、もっと片付けたくなったらその先にも手をつけてもいいでしょう。
こんなふうに具体的な行動レベルで1歩を踏み出すのです。1分後、ドア周りを片付け終えた頃、三つだけ不要な物を捨てることができた後には、「達成感」という成果を味わえるはずです。
しかし、実際にいろいろな方を支援していると、片付けの最初の一歩目は、案外片付けのための準備であることが多いです。たとえば、
・不用品を売るためのリサイクルショップを検索する
・ゴミ袋を買いに行く
・フリマアプリを選定する
・片付けのノウハウ本を購入する
・どんな物が堆積(たいせき)しているのか分析する
・片付けの方法を計画立てる
こんなかんじでしょうか。この準備時間をケチらずにしっかりとっておくことが、計画通りに進めるコツです。
リョウさんは、子ども部屋を占領しているものが一体なんなのかを分析して、それぞれの処理方法を検討したいと思っていました。また、間取り図を元に、かわいい家具をお店に見に行ったり、配置を決めたり、この際なのでカーテンや壁紙もかわいいのにしたいと思っていました。しかし、そのためにも、まずは「ドアを全開できるように、ドア周りだけ片付けよう!」が第一歩目になりました。いや、もっと正確にいえば、リョウさんは夫と一緒に片付け計画を進めたいと考えていたので、最初は夫と子ども部屋のことを話し、どのような片付け方でいくかを決めることが最初の一歩でした。
リョウさんの夫には、リョウさんの言い放った「なんならお片付けのプロにも手伝ってもらった方がいいのかな?1日あたり、5万円とられるみたいだけど」という言葉が強く響いたようでした。「ちょっとまって!そんなお金を外部の人に払うぐらいなら、俺がんばる!」やる気スイッチが入ったようです。
夫婦の決めた最初の一歩は、「ゴミ出しのたびに子ども部屋のドアまわりの物を三つずつ×2人分捨てる」です。
夫「ひとり三つずつね」
そんなゲーム感覚の掛け声に、娘さんも楽しげに寄ってきました。
結局親子3人で合計9個の不用品を処分できたのです。
リョウさん、うまいスタートを切りましたね!
まだまだこのお話は続きます。
◇このコラムの筆者があなたの先延ばし癖の改善を応援します。毎週土曜の朝、オンラインで実施です。詳細はこちらから。「働く人のための時間管理グループレッスン」(http://ptix.at/Ou2Bjb)
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。
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朝日新聞社会部