拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

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 やるべきことを先延ばしにしないためには、先延ばしせずにやり遂げた自分を想像するのが大切のようです。そのためにも、自分を奮い起こせる一言も見つけたいものですね。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

やらなくても死なないが

 前回は、先延ばしの背景として、「やらなくても死なないからこそ、先延ばしをするんだ」。でも、「死なないかわりに失っているものってあるよね」というお話をしました。

 こうした時に失ったものを具体的にイメージする方法をお伝えします。

 前々回お伝えした「ADHDのやる気スイッチを押すコツ」も、ある程度「今度こそ先延ばししないぞ!」というモチベーションが必要です。やる気スイッチを押すのは自分しかいないからです。そのモチベーションを作り出すために、私は、こんなイメージ法をおすすめしています。

 「もし片付けにとりかからないままだとしたら、その結果どんなことが起こるでしょうか。その時、自分はどんな気持ちでしょうか」

 そういいながら、片付けないままの未来の自分の生活している様子を想像してもらいます。先延ばしの歴史の長い人ほど、容易に想像できるはずです。

このまま放置したら

 娘さんの子供部屋が納戸化していて、長年片付けを先延ばししてきたADHDの主婦リョウさんの場合はこうなりました。

 リョウ「もしこのまま片付けしなかったら、娘がこの先ランドセルの他にも習字道具や絵の具、リーコーダーなどを置く場所がなくなってしまう。娘から“自分の部屋が欲しい”と言われた時に、納戸のままではかわいそう。それに娘から“どうして片付けないの?”と思われてしまいそう。・・・そんなことになったら、自分が情けない・・・」

 こうしてリョウさんは、初めて片付けをしないままの数年先を想像しました。これまでは、そんな嫌な未来について、考えたくもなかったからです。

 人は自分の恐れているものについては、なるべく考えないようにしたいものです。これを認知的回避といいます。頭の中の思考や想像をいったん止めてしまうのです。考えるだけでもつらいことだからです。

もし、片付けられたら

 反対に、リョウさんには、「片付けにとりかかることができたら、結果どうなりそうか?」についても想像してもらいました。これもリョウさんにとっては初めてのことでした。自分が片付けを先延ばし続けてきたので、片付けなんて自分には無理だとあきらめていたからです。しかし、かなえたい夢ほど、明確にイメージすることで実現に近づくのも確かです。そういうわけで、リョウさんには、片付け終わった時のことを映像で見えるぐらいイメージしてもらいました。

 リョウ「子ども部屋が完成して。子どもらしいかわいい壁紙に学習机。帽子かけもあるといいでしょうね。娘がその部屋を気に入ってくれて、そこにきちんとランドセルや持ち物が収まっている。これまでリビングに散財していた学用品がなくなって、リビングもすっきりしている。・・・夢みたいですし、それには1週間ぶっ続けで作業しなくちゃいけないかも。私一人じゃ無理かな。・・・でも、それができたら、すごくうれしいですね。すっきりすると思います。みんなに見せびらかしたくなっちゃいそうです」

 リョウさんはいつかインテリアショップでみた理想の子ども部屋を思い出しながら、瞳をキラキラさせてイメージしました。娘さんが喜ぶ姿、片付いたリビングで自分を誇らしく思っている絵が浮かびました。リビングが片付いたら、ゆっくり夫婦でコーヒーでもいれて飲みたいところです。

 さあ、両方のイメージが出そろいました。

選ぶのは、どっち

 リョウさん、どちらの未来を選びますか?片付けをしないままでも死にませんので、そのままで構いません。どちらの気持ちを味わいたいでしょうか?

 そんな風に自分で選んで、「今は片付けの時期じゃない。いくらなんでも忙しすぎる」と片付けないことを決めるもよし。「今こそやっちゃうぞ!」と強く決意するのもよしです。

 番外編として、ご自身であまのじゃくな一面を自覚されている方は、こういうイメージもよいかもしれません。

 「片付けをしてはいけない。絶対にするな」

 そういう指令を受けたとしましょう。この先子ども部屋は、どんな理由があろうと納戸のままでしか使えません。リビングに一生子どもの学用品を置かなければなりません。この先、こどもが思春期を迎えたとしても、個室を与えてはいけません。開かずの部屋の分の家賃は自分で支払ってください。開かずの部屋にあるおもちゃも衣類も書類も、どんな理由があっても捨ててはなりません。こんな指令です。

 人から言われると「なんで、そんな変なこと命令されなきゃならないの!」と腹が立ってきませんか?ものすごく理不尽な命令に思えてきますよね。

 でも先延ばすってそういうことなのでしょう。長期的にみると、ひどく不利益だらけの行動なのです。

 この指令に忠実に生きることを、数日から数カ月チャレンジしてもいいでしょう。

 これまではすぐにしたくなくて結果的に先延ばししていた片付けも、命令されて片付けできないとなると、急に不自由なかんじになるでしょう。

 リョウ「もう!なんなの!なんで納戸にしなくちゃいけないのよ!」

 なんて怒りが湧いてきた時こそ、片付けスタートの時期です。

 こうして自分の変わりたいモチベーションが熟すのを待つのもよしです。が、数年単位で先延ばしてきた人にはあまりおすすめしません。これ幸いと「先延ばす理由ができた!」と本当に納戸の存在を忘れかねないからです。心配な場合には、あえて納戸のドアを全開にしたまま生活してもらうのもいいでしょう。毎日目に付く状態にする。それで、モヤモヤとフラストレーションを起こしてもらうのです。

自分を追い込む一言を

 いかがでしたか? 最後に私のいつもしている心の準備体操をお伝えします。

 「たしかに片付けしなくても死なないけど、一生これでいいの? こんな部屋に住みたいっていう夢はいつかなえるの? 明日事故で死ぬかもしれないのに??」

 こうして自分を追い込みます。

 何かみなさんも自分を奮い起こせる言葉がみつかりますように。

 次回もこの話は続きます。

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中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。