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動物の「心」に迫る心理学者 渡辺茂さん(72)

 最近、毎年のようにイグ・ノーベル賞を日本の研究者が受賞するが、賞の創設間もない時期に選ばれたのがこの人だ。慶応大名誉教授の渡辺茂さん(72)。ハトを訓練すると、ピカソとモネの絵を見分けられることを示した。今年、山階鳥類研究所と朝日新聞社が共催する山階芳麿賞を受け、動物を相手にした心理学研究を続けている。

 ハトを訓練してピカソとモネの画風を教えると、初見でも見分けられる――ハトの識別能力を示した先駆的研究で知られ、「人々を笑わせ、考えさせる」イグ・ノーベル賞を1995年に受けた。

 ハトと人は一見同じことをしているが、実際は違う。絵を細かくバラバラにして並べ直すと、人は誰の絵かわからなくなるが、ハトは区別できる。「人は総じて全体をまとめて見るが、ハトは小さな特徴をつかんでいる」。そんな違いは脳の情報処理の差と考える。

 鳥の行動や認知能力を深く解明してきた功績に、7月、山階芳麿賞が贈られた。鳥の分類や生態、保全などが専門の歴代受賞者と比べると、異色の存在に見える。

次の目標は「ウナギの記憶」

 東京生まれで幼稚舎から大学まで慶応に通った。子ども時代の夏の自由研究は、飼っていたブンチョウやネズミの行動観察。大学ではハトを扱える心理学の研究室に進んだ。「普通は人への興味で心理学を専攻するが、動物が好きで選んだ変わり者でした」

 ハトやカラスなどでさまざまな実験に取り組み、慶応大名誉教授となった今も研究を続ける。海と川を回遊するウナギの記憶の不思議を解き明かすのが目標だ。

 長く動物と暮らして「人の心が唯一の心ではない」と思う。人の心は環境に適応して進化した多くの神経系の一つにすぎない。「だからこそ、私たちと違う動物の心に迫りたい」

(文・写真 米山正寛)