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 天然痘や麻疹(はしか)と違って、新型コロナウイルス感染症を世界中から撲滅させる道筋は立っていません。基本戦略は2通りあって、一定数の感染者が出ることは許容しつつ流行のピークを下げる「ピークカット」か、その地域における感染者数をゼロにすることを目指す「封じ込め」かです。日本を含め、多くの国ではピークカット戦略を採用しています。ニュージーランドのように封じ込めが成功している国でも、ひとたび感染者が出れば再度のロックダウンが必要ですし、いつまでも国境を閉じておくわけにはいきません。どちらの戦略を取るにせよ、長期的には集団免疫に期待せざるをえません。

 前回まで、麻疹を中心に集団免疫のお話をしてきました。みなさんが興味があるのは、新型コロナが集団免疫で防げるのか、防げるとしてどれぐらいの人が免疫を持てばいいのか、ということでしょう。正直なところを申し上げれば、新型コロナは新しい感染症なので分かっていない点が多数あるため、確実に言えることは少ないです。ただ、不確実なりに、より可能性の高い推測ならできます。そのためには、麻疹のように分かっていることが多い感染症についての知識が参考になります。

 さまざまな説がありますが、集団の約40~60%が免疫を持つと集団免疫がついて流行が収まるとされていることが多いです。麻疹の場合は95%が免疫を持つ必要があるのに、なぜ新型コロナでは約40~60%でいいのかというと、感染力が違うからです。麻疹より新型コロナは感染力が弱く、集団免疫がつくために必要な免疫を持つ人の割合は低くなります。

 とは言え、仮に一度感染すれば二度とかからないとしても、ワクチンなしに集団免疫を目指すのでであれば人口の40~60%もの人が感染する必要があります。日本の人口が1億2000万人として、単純計算すれば4800万~7200万人です。現時点での日本の累積感染確認者数は5万人強で、感染したが診断されていない人が相当数いると仮定しない限り、集団免疫からはまだほど遠い状態です。

 楽観的なシナリオでは、有効なワクチンが開発され多くの人に接種することで集団免疫が得られます。ワクチンが開発できなくても、多くの人が感染することで集団免疫がつくシナリオもありえますが、一度の多くの人が感染して重症者が増えると医療崩壊につながります。どちらのシナリオでも急激な感染拡大を防ぐ対策が必要です。長い戦いになりますので持久可能な方法でなければなりません。また、集団免疫を目指すにしても行動変容で感染力を低く保てれば、最終的に感染する人の数は少なくて済みます。

 どのような方法でも集団免疫はつかない、という可能性もあります。麻疹や風疹のように、一度かかれば生涯かからない感染症ばかりではありません。たとえば通常の風邪の原因になる「旧型」コロナウイルスは、重症化することはきわめてまれですが、生涯に何度でもかかります。新型コロナについても、一度、PCR検査が陰性になった人が再度陽性になったという報告が複数あります。

 免疫がついても長続きせず、生涯に何度もかかるのであれば、集団の約40~60%が免疫を持つ状態を維持するのは難しく、いつまでも流行が続くことになります。幸い、子供が重症化することはまれです。集団免疫がつかない場合では、子供のころから何度も感染を繰り返すことで免疫が付き、高齢になっても重症化しないようになるのを期待するしかありません。遠い将来は、新型コロナウイルスの病原性は「旧型」と区別できないほどになっているかもしれません。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。