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 骨盤骨折のため、2月から数カ月、ベッド上で安静加療をしていた私ですが、寝たきりの勘を取り戻して、それなりに楽しく過ごせました(このコラムは、主に4月に執筆したものです)。14歳でユーイング肉腫を発症したとき、立つことも座ることもできなかった私は、生活のすべての時間をベッド上で過ごさざるを得ませんでした。食事、お風呂(清拭(せいしき))、トイレをはじめとしたADL(日常生活動作)の一つひとつを試行錯誤して、自分なりの工夫を見つけていったのです。そこで、そんな寝たきり生活を効率よく、快適にする知恵をご紹介します。いろいろあるので、今回は前編とします。

拡大する写真・図版イラスト・ふくいのりこ

こぼさない工夫をしながら

①食事

 同居する母親に作ってもらっています。メニューもさまざまです。寝たまま食べると、のどに詰まりやすいので、まずは、仰向けの状態からあごをひくような形で頭を高くすることから始めます。食器がのったお盆をおなかの上にのせて、汁物がこぼれない程度に、お盆を手前に傾けたら準備完了です。あ、首元にタオルを敷くのも忘れずに。お皿の深さによっては、中身が見えないこともありますが、鏡を使うとよく見えます。あとは、お箸で食べるだけ。お豆腐などの崩れやすいものは、積極的にスプーンを活用しましょう。また、手を洗うのも大変なので、汚さない工夫も大切です。

 一見、食べづらそうに思える麺類も、上手に食べることができます。ラーメンやうどん、そばなどの汁あり系は、れんげに一口分の麺とスープを盛り付け、パクッとすれば、こぼすことなくおいしくいただけます。パスタなど、汁なし系は、盛り付けられているお皿とは別の小皿で一口ごとにクルクルし、小皿を口元に添えながら食べるときれいです。

 飲み物は、ストローが便利ですが、普通のコップとの組み合わせはおすすめできません。うっかりこぼしてしまうと布団などが水浸しで後処理が大変だし、片手にコップ、もう一方の手にストローと、両手でないと飲めないのがネックです。ペットボトルにストローをさすか、ストロー状の飲み口のボトルだと飲みやすいです。慣れてくると、コップのまま飲めるようになりますが、水を入れる量や傾け具合、口のつけ方など、意外と難しいので、興味のある人は試してみてください。仰向けの状態で飲むのは難易度が高いです。

時短対策で見つけたシャンプーがヒット

②お風呂

 急性期の痛みが引くまでは、我慢するしかありません。ドライシャンプーや清拭でしのぎます。少し座れるようになったら、短時間のシャワーですませます。このとき、髪の毛は短い方がいいに決まっています。洗う時間も乾かす時間も短くなるのですが、骨折は突然やってくるので、運次第・・・。今回、時短対策として導入したのは、シャンプーのほか、トリートメントや速乾などの機能を兼ねてくれるものでした。偶然見つけたものが、大ヒット! キシキシするイメージがあったけれど、普通にいい感じです。少しでも座る時間を抑えたくて採り入れたものでしたが、ちょっぴりずぼらな私にぴったりでした。

排便は意外に楽

③トイレ

 これについては、あまり困ることはありませんでした。尿は、バルーンを留置すれば、1日に2回くらい袋にたまったものを破棄すればいいし、便は、身体が状況を察して適応してくれたので、困らずにすみました。週に1回、急におなかが動き出して、まとめて漏れるようになったのです。そのときは大変だけれど、何もせず勝手に漏れてくれるうえ、それ以外の時間は排便問題から解放されるので、ある意味、楽でもありました。

寝返り対策で行き着いたのは・・・

④パジャマ

 下半身にまひがあると、寝返りも一苦労です。シーツとパジャマ、パジャマと布団カバーの摩擦力の大小で、寝返りのしやすさも異なります。これを私は、丈の短いワンピースタイプのパジャマにすることで解決しました。摩擦を少なくするために、素材と面積を見直したのです。一番スルッと動けたのは、サテン生地でした。これだったら、布団カバーと触れる面積の広い長ズボンでも大丈夫です。けれども、ときには不都合もありました。身体を引きずりながらの寝返りしかできないので、動きにパジャマがついてきてくれなかったり、縫い目が痛かったりすることも・・・。いっそのこと、「動かない足をパジャマで覆うのはやめよう!」という発想で行き着いたのが、ワンピースだったのでした。一日中、布団の中にいるので、快適さが格段に上がります。

物を置く場所は近いだけではダメ

⑤配置

 生活全般において重要なのが、物を置く場所です。寝たまま、いろいろなことをするためには、手の届く範囲に必要な物を配置しておかなくてはなりません。これが意外と難しいのです。朝起きて、夜眠るまで、なにを使っているかと思い浮かべてみてください。結構たくさんあるのではないでしょうか? それらを手の届く範囲に・・・といっても、置ききれないはずです。

 まずは、物を厳選します。いつも使うわけじゃないけど、たまに必要な物がありますが、迷ったときは、使いたいときの緊急度合いを想像すると決めやすくなります。極端ですが、例えば、イヤホンと目薬。どちらも、たまにしか使わないけれど、音楽はイヤホンがなくても聴けるし、取ってくれる誰かが来るまで我慢することも可能です。しかし、目がかゆい、アレルギー症状が出たとなれば、待ったなし。使う頻度が同じだったとしても、目薬を手元に置くべきでしょう。

 話を元に戻して、置く場所です。近い方が取りやすいと思いがちですが、一概にそうではないというのがポイントです。例えば、ひじの並びに物があるとき。左ひじの横にある物を取ろうとしても、関節の構造上、取るのが難しいのです。反対の手を伸ばすことになりますが、身体のすぐ横でもない限り右手でも届きません。意外にも、ひじの近くはデッドスペースというわけです。一方、身体から離れた物でも、ひじを伸ばしたまま手を動かした同心円上にあれば、簡単に取ることができます。まとめると、ひじを中心として手先が描く小さな弧や、肩を中心として手先が描く大きな弧の上が寝たまま物を取るのに適した位置と言えるでしょう。こういったことを研究してまとめた論文も出ています。

 寝たきりと一言で言っても、置かれている状況は人それぞれ異なります。まひの程度や、医療の介入度合いなどによって、100人いれば100通りの生活があるはずです。けれども、誰かの工夫が私の役に立つこともあれば、その逆もしかり。こうした細かい生活の知恵は、その人にとっては個人的過ぎて、当たり前過ぎて、あまり患者同士でも共有されていないような気がします。でも、QOL(生活の質)やADLが上がるきっかけは、意外とこうした小さな工夫だったりするのかもしれません。

 まだまだある寝たきり生活の知恵。続きは、後編でご紹介します。

<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/(アピタル・樋口彩夏)

アピタル・樋口彩夏

アピタル・樋口彩夏(ひぐち・あやか)

1989年、東京生まれ。中学2年の時、骨盤にユーイング肉腫(小児がん)を発症。抗がん剤、重粒子線などの治療を経て、車いすでの生活に。「いつ、誰が、どんな病気や障害をもっても、笑顔で暮らせる日本にしたい!」を目標に日々、奮闘中。当事者の視点から建設的に伝えることをモットーに執筆・講演も行っている。