[PR]

 もしあなたがある日、突然に「がん」だと診断されたら、家族以外では誰に相談をしますか? 私が15年前に経験したことです。私たちの調査では、自身のがんについて職場に報告する人が多かったのですが、報告しなかった人も少なからずいました。治療をしながら働くことは、孤独との闘いに陥りかねません。がんとともに働く人たちを支えるための仕組みづくりを始めています。

身近な相談先をもつこと

 私の場合、確定診断が出た後、家族以外で最初に連絡した相手は職場の上司でした。まず、職域検診で再検査になった時点で、休暇取得のためにいったん報告。がんの診断が確定した直後に「やっぱりがんでした。今日は病院の手続きなどをしたいので、全休に変更します」というショートメールを送りました。翌日、出社するとチーム・メンバーが集められ、診断結果と、これから2週間、治療計画を考えるための検査をしていくので休みが増えること、外来予約が会議などと重なった場合は治療を優先させてほしいことを伝えました。

 メンバーからは、「仕事のことは大丈夫」といった言葉が返ってきて、本当にありがたかったです。と同時に、忙しい日常業務にさらに負担をかけてしまうことに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになったことを思い出します。ちょうど15年前の夏でした。

 検査や手術入院は、たまっていた有給休暇を、抗がん剤治療の間は傷病手当金制度を使って半年間ほど休職をしました。

 復職後は、業務量の調整の仕方やクライアントなど外部への伝え方、心の整え方など、同じ病気仲間に相談したり、体験談を聞いたりしたことで、自分の考え方を整理していきました。

 治療に関することは医療者に聞けばよいのですが、生活、特に仕事に関することは、やはり仲間から得られる情報一つ一つに考えさせられるヒントがつまっており、とても役にたちました。ただ、自分と同じ業種で働く仲間ではなかったので、欲を言えば、同じ業種や同世代の仲間から話を聞きたかったと思っています。

 どのぐらいの患者さんが職場でがん罹患(りかん)を公表しているでしょうか? 

 図1は、以前、私たちが行った調査の結果です(「がん罹患(りかん)と就労2016」調査キャンサー・ソリューションズ株式会社:N=300)。

 職場で「がん罹患」について職場の人に話をした人の割合は87%。その報告先は「直属の上司」、次いで「同僚」「部下」「先輩の社員、人事」となりました。

 また、報告をしたことで「通院しやすくなった」「休暇取得しやすくなった」「病名を隠して働く心理的な負担が軽減した」などのメリットが挙げられました。

 報告しなかった人は13%ほどおり、その理由は「特に仕事に支障はなかったから」「言っても何も変わらないから」などが挙がりました。がんは早期で見つけることができれば、入院期間も今は本当に短いですから、必ずしも「報告」することが必須ではないかもしれませんし、周囲の人も気が付かないまま時間が経過することもあるでしょう。公表しないことを選択することも人それぞれだと思います。

 最近は芸能人の方も公表をすることが増えました。本人へのがん告知ですら一般的ではなかった時代があったことを考えれば、周囲への公表は大きな変化なのかもしれません。

もしも職場に同じがん体験者がいたら・・・

 厚生労働省によれば、治療をしながら働いている患者は32万5000人いると推測されています(図2参照)。がん患者はあらゆる企業規模の会社で働いています。例えば、50人未満の事業所に42%(8万1900人)、1000人以上の大企業に28%(5万4600人)のがん患者が働いているのです(図3参照)。

 仕事をしていれば、1日の大半の時間を職場の同僚とともに過ごしていますから、そうした職場で、あるいは職場が異なっても同じ会社の中で、気軽に病気のことを相談できる「ピア(ピア:同じ体験をした仲間という意味)」がいれば、とても心強い存在です。また、「病気をしても働ける・働いているロールモデル」が身近にいることは、診断直後の混乱した時期で「ひとりじゃない」という孤独感の緩和にもつながると思います。

 同じ会社の中にピアがいなければ同じ業界や業態の中でもいいのです。とにかく、現役で働いているピア、体験者に「あなたはどうやって向き合ったか?」という話が聞きたいのです。

 がんの就労相談、その支援は、一人ひとりの個別性が高く、難しいといわれています。なぜなら、職場や会社の風土、業務特性、就業規則、キャリア形成のタイミングと年齢、治療の内容、そして、働くことへの価値観など、一人ひとり多様だからです。

 でも、がんの診断によって、崩れかけた自分のアンデンティティを再構築するためには、たくさんの人の話を聞いて、欠けてしまった穴を埋めていくことが大切です。生きることの大切さ、仕事を通じて社会とつながることの大切さ、そして、生きづらさを感じている人の存在や気持ちなど、病気を通して知り得た体験は、会社の中で、新しいビジネス的価値の創造につながることもあるでしょう。 「体験には価値がある」し、「人生にはひとつも無駄なことはない」。そう思えるようになったのは、仲間と出会い、支えられたからなのだと思います。

ワーキング・ピア・サポーターの育成へ向けて

 職場で病気を公表した後、一番増えたのは、身近な人から「実はわたしも〇年前に~」「実はいま親が~」という思いもよらない告白でした。また、「こんなどきどうしたらよい?」「どうやって治療を選んだ?」といった相談事も増えました。今でこそ、様々な相談経験を積んだことで、どのように寄り添えばよいのか、なんとなく見えてきましたが、当時は異なる対応や相手を傷つけてしまうような対応をしていたかもしれません。

 患者仲間に支えられ体験を伝え、支える力へ変換していくためにどうしたらよいのか。そんな仲間の体験を、会社内、あるいは、会社を超えた業種や役職ごとに共有し、互いにつながっていこうという、「ワーキング・ピア・サポーター」の養成をこれから体験者でスタートしていきます。

     ◇

 次回は、この活動の目的や研修会の様子について報告をしたいと思います。がん体験者がはじめた新しいチャレンジに、是非ご期待ください。

桜井なおみ

桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。