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 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷が問題となっています。勢いで激しい言葉を使ってしまったり、つい不確実な書き込みを拡散してしまったり。SNSが生活の一部になってきた現代、傷つけ傷つけられることは誰にでも起こり得ます。本来は世界中の人と対話できる自由なネット空間。どう付き合っていけばいいのか、さらに考えます。

後悔いまも・悩み吐露できた

 デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●後悔している

 誹謗中傷を軽々しく書いてしまったことはいまだに後悔しています。その時の感情で書きましたがもう二度としないと心に決めています。(三重県・10代女性)

●目を引こうとする文章にドキリ

 自分の考えを吐き出す、マイノリティーでも発信しやすい点は良いと思います。SNSでの発信によって、多様性への理解が深まり視野が広がることはあります。しかし短い文章でニュアンスを伝えるのは難しく、目を引くために強い文脈になりがちだと感じています。自分が対象になっていなくてもドキリとすることがあります。断定の文章で、「~すべきだ」「こういうのは絶対よくない」という言葉が多すぎて、しんどくなります。自分と違う意見に耳を傾ける、様々な人がいることを想像する力が必要だと感じています。伝わることに責任を持ちたいです。(大阪府・20代女性)

●意見の対立や火種を増やした

 タイムラインにいる友人の考えと自分の意見が反対だったので、自分の考えに合う投稿をリツイートし続けた。拡散できることによって交わらなかった意見が見つかるようになり、起きないはずの意見の対立や、炎上させたい人に都合のいい火種が増えたと思う。(東京都・20代その他)

●匿名だから悩みを打ち明けられる

 匿名の空間で悩みを吐露したところコメントがついて、割と真剣な回答をもらい、はじめは気持ちがざわついたが、落ち着いて考えるとリアルな場ではもらえないような回答だったことがある。こういったことがあるから、ウェブ空間での発信をやめられない。逆に若者の悩みにコメントしたこともある。「嫌な思い」というものが主観でしかない、というところがとても難しい。(神奈川県・40代女性)

●勇気づける使い方を

 エゴサーチのようなことをして、良い感想を読んだ時にすごくうれしかった経験があります。それから自分が良いと思ったらネットに書くようにしました。そのことで実際に有名な方とつながりが出来たことがあります。中傷で人をくじくのでなくて、勇気づけるような使い方をしたら幸せになれると思いますね。(奈良県・30代男性)

●匿名の意見は信用できない

 匿名で書かれた意見は信用のしようがないと考えます。したがって、自分はツイッターやインスタグラムでは本名を名乗って記事を書きます。おかげで本音をそのまま書くことは難しくはありますが、確かであるか調べたり考えたりして書くことができるといえます。ツイッターなどでは匿名で中傷するスタイルをみかけます。名を名乗ってのちご意見なりをお話しになってくださいな、ひきょうであろうと思わずにはいられません。匿名の方のコメントには「消去」できるボタンがついていて、言われた方が自由に押せるようになっていたら少しは救われるのではないかと思わずにはいられません。(東京都・60代女性)

●匿名の発言を守り抜くべきだ

 何を規制するか区分が重要である。とりわけ政治や行政、政治家や企業経営者など社会的責任のある人、評論家、オピニオンリーダーと言われる人への揶揄(やゆ)や皮肉を含む批判は自由であるべきで、権力による封殺を防ぐために匿名での発言を守り抜くべきだ。意識の底で意見の分かれる問題、例えば私は政治家の育休には否定的で、育児経験を政治に生かすなら一度辞職して育休が終了後再度出馬すべきだ、という意見であるが、日本はこれを実名で安心して自由に表明することが出来る社会だろうか。あなたがそういう意見を持つのは尊重するが、私は賛同しないし法制化や制度化には反対である、という発言を守るためにも匿名による意見表明は守り通さねばならない。(京都府・30代男性)

●誹謗中傷と批判の線引きが大事

 中傷や暴言の書き込みを目にする機会が多く、それだけで気分が沈むことがあります。だから誹謗中傷はなくなってほしい。しかし、正当な批判までできなくなると、せっかくの意思表示ができる場がなくなってしまう。誹謗中傷と批判との線引きはとても大事だ。(徳島県・30代女性)

匿名空間 抑制利きにくく 小俣謙二・駿河台大教授(社会心理学)

 SNSでなぜ中傷が横行するのか、我が国の心理学ではまだ十分に検討されていません。ただ、匿名性の高い空間で攻撃行動が高まることは、よく知られています。匿名で容易に発信できるSNSは、攻撃的な言葉を発信できる条件がそろっています。「他の人も同じようなことを言っているから」などと、自らの言動を正当化しやすいとも言えるでしょう。

 中傷や炎上を引き起こす発信者に共通する心理としてよく挙げられるのが、正当に評価されていないという不遇感や、世の中への不満感です。攻撃的な言動がストレスのはけ口として機能している可能性がありますし、他者からの「いいね」などの賛同の声に、自らの承認欲求を満たす側面もあるでしょう。

 ただ、中傷に至る動機は様々で、怒りや嫉妬心、差別もあれば、強い正義感が極端な発信につながることもあり得ます。

 相手の顔が見えないことも問題を助長しています。顔をつきあわせたやりとりであれば、相手が悲しそうな表情を見せたり、怒りで顔を赤くしたりしたら、それ以上の攻撃を控えるでしょう。しかし、SNSでは抑制が利きにくくなります。人類が時をかけてつくってきた対人関係における社会行動のルールを、SNSが変えてしまったのかもしれません。死を選ぶほど人を追い詰める事態は、深刻な社会病理です。

 有効な対策は、おのおのが自制心や自己抑制能力を形成し、他者への共感や想像力、思いやりを育むことでしょう。ですが、簡単ではありません。それよりも、下手な発信をすると相手を傷つけるだけでなく、自分も損をする、失うものがあると理解させることで、中傷を統制するのが現実的だと思います。

 現代人はネット情報の獲得に躍起となり、内省や熟慮の時間が減っているように思います。社会心理学者のミルグラムは、刺激が過剰に加えられる環境(過剰負荷環境)でのヒトの対処行動について、▽情報の短時間での処理▽重要でない情報の無視▽責任の回避▽他者との個人的接触の回避――などを挙げています。こういう心理では、他者への共感や思いやりは生まれにくくなると思います。ネット一辺倒の生活スタイルを見直してみるのも良いかもしれません。

 中傷については、何らかの対処が必要な状況と思います。表現の自由は民主主義社会の基盤ですから、安易に権力側の介入をさせず、管理者レベルでの対応が求められるでしょう。同時に、匿名での批判は避けるべきであり、まして人格を否定するような中傷はもってのほか、といったコンセンサスを教育などを通じて形成していくべきではないでしょうか。(聞き手・机美鈴)

SNSでの言動 学ぶ場を 聖徳学園最高情報セキュリティ責任者 横浜友一教諭

 SNSの振る舞いを学べる場が、いまの子たちにはありません。先日、文部科学省が中学校への携帯電話の持ち込みを条件付きで認める方針を出しましたが、多くの学校は持ちこんですぐ電源を切っておしまいです。

 一方で、学校外の日常では、中高生どころか、小学生でもスマートフォンを持ったり、SNSを使ったりしている子もいます。LINEやツイッター、インスタグラムなど様々なものを使い、トラブルが起きていく。学校はトラブルに巻き込まれないように禁止しますが、本当にそれで解決になるのでしょうか。

 そうした問題意識を出発点に、本学では使いながら学ぶ実践をしています。中学生以上は1人1台iPadを持ち、SNSもユーチューブも授業で使います。トークノートというコミュニケーションアプリは、生徒同士、教師同士、教師と保護者、各クラス内、部活など、あらゆるグループで使い、文字でのやりとりを早くから行っています。生徒のグループには最初は必ず教師が1人参加し、静観していますが、予期せぬトラブルも起きます。

 勝手に撮った友達の写真をアップしてしまう、ちょっとした行き違いからどんどん言動がエスカレートしてしまう、短いSNSの文脈で事態が把握できない子にきつい言葉を書き込む、何人かで1人を責める……。しかし、いざこざや失敗を繰り返すうちに、文字情報だけの世界でどんな言葉を書き込むとトラブルになるのか、相手を傷つけるのか、コミュニケーションを通して心が育っていきます。子どもは想像力がはたらかず、ささいなことから大きなことになりがちですが、教師や保護者もいらだつとひどい言葉を投げてしまうのは同じです。

 中学段階では、週1コマのICTという授業でデジタルとのつきあい方を学びます。個人的にSNSをやっている子も多いですが、トラブルは激減しました。早い段階で、人を敬う心や、SNSなどでのコミュニケーションの難しさを教えることこそ、いま必要な教育です。(聞き手・宮坂麻子

表現の自由と規制 慎重に ネット中傷裁判に詳しい北沢一樹弁護士

 被害者を救済する観点からは、権利侵害が明白なネット上の投稿は、SNSなどの事業者が任意で削除や情報開示をすることが望まれます。

 しかし、権利侵害の明白性を判断するのが事業者側では難しいケースが少なくありません。名誉毀損(きそん)が問題になった場合、相手の評価を下げる投稿でも、公共性と公益目的、真実性の3要件があれば違法とはならない。この判断には困難を伴うことが多く、ガイドラインによる啓発など、事業者が悩まないで済むような仕組みが必要です。表現の自由が関わる問題を事業者が判断することには限界もあり、司法判断に委ねる必要があるケースも多くあります。

 一般的には、被害者が一般人なら書き込みには公共性がない場合が多く、権利侵害が明白と認めやすい。逆に政治家だと公共性がある場合が多く、芸能人などの有名人も難しい判断を迫られる場合があります。

 私がプロバイダー事業者の代理人として経験したなかには、違法行為をした企業や消費者被害を出した企業が、内部告発や被害事案の投稿者を割り出そうとした例があります。悪い口コミをなくそうと、裁判所でウソをついて投稿者の特定を図る例もあります。

 被害救済のために投稿者情報の開示手続きが早まるのは良いことです。ですが、開示の要件まで緩めると、開示請求が乱発されたり、政治家や企業への正当な批判まで開示対象となったりし、このような批判をしにくくなる恐れがあります。口コミサイトのようなサービスも成り立たなくなる可能性があるでしょう。自由な言論空間はいちど壊れると元に戻すのが難しい面があり、ルールの見直しは慎重に検討していく必要があります。(聞き手・藤田知也)

ツイッター社、対策に新機能

 自由な言論空間として発達してきたツイッターは現在、全世界で1日あたり1億8600万人が利用しています。日本は世界第2の市場規模です。匿名で本音を語り合える場である一方で、中傷に悩む利用者も増えています。

 ツイッター社は、児童の性的搾取の描写や助長を一切禁止するなどの世界統一のルールを明示して、対策をしてきました。同社の「透明性に関するレポート」によると、日本では昨年上半期で政府機関から5127件の削除請求があり、3053件がルール違反で削除されました。同社日本法人公共政策本部長の服部聡さんは「裁判所や捜査機関からの情報開示請求などに全面的に協力しています」と説明します。匿名であっても、違法行為をした場合、責任を問われる環境が整いつつあります。

 一方で、朝日新聞デジタルのアンケートには「対応が不十分」などの声が寄せられました。こうした意見について、服部さんは「個人にとっては納得できない内容だがルール違反には該当しないもの、不快かもしれないが違法ではない投稿もあり、線引きが難しい。社会で議論を深める必要があります」と語ります。

 同社は米国時間11日、利用者が投稿ごとに返信できる人を制限できる機能を付加。さらに新技術の導入や人員の増強、啓発活動に力を入れるなどして対策を強化していくといいます。(伊藤恵里奈)

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 自分の記事がどう読まれるかを知りたくて、それを検索する「エゴサーチ」をたまにやります。そこでは記事への批判はもちろん、無知だのアホだのと、自分に向かうダメ出しにも出くわします。どぎつい表現にへこむこともありますが、公共性のある記事を書く以上、それらが違法となることはあまりないでしょう。

 名誉毀損やプライバシー侵害が明白な投稿はなくなってほしいと思います。一方、違法でなくても凶器となる言葉がネット上にはあふれています。どう向き合えばいいのかは、書かれる側の立場や内容によっても変わるのだな、と考えさせられます。(藤田知也)

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 気がつくと数時間、スマホの画面を眺めている日も。ツイッターの「#名画で学ぶ主婦業」などのユーモアある投稿に笑い、動物の映像に和ませられています。取材上の気づきを得ることも多いです。

 今年5月、一人の匿名女性が始めたツイッターデモ「#検察庁法改正案に抗議します」は、大勢に支持され、政治を動かしました。日本は諸外国と比べて、インターネット上で匿名で発信する割合が高いそうです。匿名だから話せる悩みもあるでしょう。でも差別を受けたり、政治に物申したいと思ったりしたとき、誰もが実名で安心して考えを表明できる社会であってほしいと願っています。(伊藤恵里奈)