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 米軍基地に関係する神奈川県内の自治体で作る県基地関係県市連絡協議会(県市協)から、横須賀市が退会した。米軍の新型コロナウイルスへの対応をめぐり、黒岩祐治知事が日米地位協定見直しの必要性にも言及するなかで、考え方の相違が大きくなったことが理由だという。米軍の最重要拠点のひとつである横須賀基地のおひざ元が欠けたことは、今後の県市協の活動に影を落としそうだ。

 「感染拡大を防止するために現場が懸命に対応している今、地位協定改定を持ち出すタイミングではないと考えた」

 横須賀市幹部は退会の理由をこう説明する。

 退会は7月31日付。県市協が毎年夏に行っている政府への基地問題に関する政策要望の前に、退会すると決めていたという。県市協の構成自治体は、県と横浜、相模原、藤沢、逗子、大和、海老名、座間、綾瀬の8市になった。

 新型コロナをめぐっては当初、横須賀基地などが基地関係者の感染を逐一公表していた。だが3月末に米国防総省が非公表の方針を示し、発表が途絶えた。米メディアが横須賀配備の原子力空母で多数の感染者が出ていると報じても、日本側には情報がもたらされない状態が続いた。

 黒岩知事は、米軍基地がある15都道府県で構成する「渉外知事会」の会長も務める。沖縄に駐留する米兵の大規模感染が明らかになるなかで、黒岩知事は、米軍基地ごとの感染者数の公表や日本国内の検疫ルールの順守を米側に働きかけるよう国に要請。日米地位協定の見直しにも言及した。

 県市協が今月中に政府に出す毎年定例の政策要望でも、地位協定の見直しや、米軍関係者の検疫の国内法適用などを盛り込む見通しだ。

 一方、横須賀市は地位協定を改定する必要はないという立場だ。横須賀基地による感染者情報の扱いについても、上地克明市長は6月実施した在日米海軍とのテレビ会議で「基地や部隊の感染者数を公表することが、部隊の運用に影響することは理解している」と述べるなど、米側の姿勢に理解を示してきた。

 横須賀市側には、独自の渉外活動で実績を上げてきたという自負もある。

 7月、羽田空港で検疫を受けて入国した米軍関係者が、横須賀市内のホテルに入ったあとに新型コロナ検査の結果が出て、陽性と判明。上地市長はすぐに外務省など関係省庁に赴き「検査結果の判明前にホテルを使うのはやめてほしい」と強く求めた。

 外務省はこの後、在日米軍に働きかけて、検査結果が出るまで軍関係者を空港に待機させるなどの運用の改善につなげた。その報告で市役所を訪れた外務省北米局幹部との面会で、上地市長は「市民の理解を得ながら基地が安定的に運用されることが日本の安全保障にとって重要」と述べた。

 市幹部は「コロナ対応についても、日米合同委員会の覚書に基づき、米軍の衛生当局と適切に情報共有をしている」と話す。地位協定見直しなどで厳しい交渉を迫るよりも、協調姿勢で個別の問題解決を図りたいとの姿勢とみられる。

 一方、県基地対策課は「横須賀市の退会は残念だが、国への要請には影響が出ないようにしたい」としている。

 横須賀市が県市協を退会したことについて、基地問題に詳しい横須賀市民法律事務所の呉東正彦弁護士は「基地周辺住民の代弁者となってきた県市協は、厚木基地の騒音被害改善といった成果を上げてきた。横須賀市が抜けて自治体の足並みが乱れると、米側に働きかける力が弱まるのではないか」と懸念を示した。(佐々木康之、田井中雅人