新全体主義に精神のワクチンを マルクス・ガブリエル氏

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聞き手・高久潤
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 テクノロジーの発展は、私たちを「新しい全体主義」へと導くかもしれない――。ドイツの哲学者マルクス・ガブリエル氏は、コロナ禍の世界をそう読み解く。デジタル化が全体主義に結び付くとは、一体どういうことなのか。「明るい未来」をたぐり寄せるために、何が必要なのか。

 ――新型コロナウイルスの感染拡大が起きる前、AI技術の発展が人間や社会を根本的に変えるのではないか、という議論が流行していました。

 「私たちは最近まで、とんでもない間違いを信じていたことが明白になったと思います。具体的にいえば、テクノロジーの進歩そのものによって、世界がより良い場所に変わったり、私たちの社会が解放されたりしていく、といった考え方です」

 「むしろ技術の発展が私たちにもたらしているのは、『新しい全体主義』とでも呼べる状況です。デジタル権威主義体制と言ってもよいでしょう。ただし国家が全体主義的になったという話ではありません」

監視の主体は「政府ではない」

 ――国家ではなければ、何が全体主義化しているのでしょうか。デジタル化が全体主義に結びつくとはどういうことですか。

 「私は全体主義の特徴の一つを、公的な領域と私的な領域の区別の喪失として考えています。20世紀の歴史を振り返れば、日本の過去もそうでしたが、全体主義化すると、国家が私的領域を破壊していった。私的領域とは、より分かりやすく言えば『個人の内心』ですね。国家は監視を通じてそれを探り、統制しようとしました。一方、現代は違います。監視・統制の主体は政府ではなく、グーグルツイッターなどに代表されるテクノロジー企業です」

 「私たちはいま、SNSなどで私的な情報を自らオンラインに載せ、テクノロジー企業がその情報に基づいて支配を進めています。しかも自発的に私たちは情報を提供しています。一方、国家はこうした企業に対して規制をしようとしても手をこまねいている。言い換えれば、テクノロジーの発展が、道徳的進歩と切り離されてしまったままなのです」

 「民主的にも正統化(legitimate)されていない一部のテクノロジー企業が、社会・経済の大部分を左右する。しかも市民自らが自発的に従うことに慣れてしまっている。私がいう『全体主義』はこうした状況です」

ディストピア小説が現実に

 ――新型コロナウイルスの世界的な感染拡大とは、どう関係するのでしょうか?

 「いくつか指摘しないといけないポイントがあります。まず未曽有のウイルス危機で、(感染が本格的に拡大する)半年前であれば市民から相当の反発を受けたであろう政策を、現実のものにしています」

 「感染拡大を抑制するためのアプリの開発や導入がそうでしょう。これ自体の是非はひとまずおいておきます。これらにはテクノロジーが関わっている。私的な領域と公的な領域の区別をどう考えるかは、技術的には決定できません。しかもコロナ禍では、経済全体は収縮傾向にありますが、仕事やコミュニケーションのオンライン化が進むことでテクノロジー企業は収益を上げ、影響力を高めている。コロナ以前からの問題ではありますが、よりその状況が露見しています」

 ――感染抑制のためには、一定期間やむを得ない側面はありませんか?

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