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 生きる時代も場所も違うのに、なぜか「こうもあり得た、もう一人の自分」を見せられた気になる。柴崎友香さんの新刊『百年と一日』(筑摩書房)は、そんな読後感が印象的な短編集。書かれなければすぐに消えてしまう、ささやかな日常を言葉によってつなぎ留めた掌編それぞれに、人生の確かな手触りがある。

 収録する33編の多くに、長い題名が付く。

 「たまたま降りた駅で引っ越し先を決め、商店街の酒屋で働き、配達先の女と知り合い、女がいなくなって引っ越し、別の町に住み着いた男の話」

 男はかつて情を交わした女がアパートの窓辺に腰掛け、たわいもない肝試しの話をした光景がなぜか忘れられない。25年後、たまたま通りかかった窓辺に、よく似た女の姿を見る。

 あらすじのような題名にある通り、劇的な出来事は何も起こらない。それでも、感情表現を抑え、わずか数ページで描かれる男の半生には奇妙なほどのリアリティーがある。

 「『なにげない日常』と片付け…

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