聞き手 編集委員・浜田陽太郎
長野県安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」でドーナツを食べた入居者が死亡した事件。准看護師が「おやつの配り間違い」を罪に問われ、一審では「罰金20万円」の有罪に。東京高裁では逆転無罪になり確定しましたが、もし一審であきらめていたら准看護師は「前科1犯」になっていたのです。記者自身も社会福祉士の資格をとる過程で特養で実習し、食事介助や見守りも経験したので人ごとではありません。介護事故の刑事責任について、この裁判で弁護側を支援してきた刑事法の専門家、村井敏邦・一橋大名誉教授に聞きました。
――介護現場では転倒や誤嚥(ごえん)など事故は起こりますが、通常は民事で解決されてきました。それが今回、刑事責任を問われて起訴されたのが不思議です。
「私も起訴されたこと自体、不思議でした。そもそも、警察・検察が最初から死因をしっかり調べていればよかったのです。弁護側が調べて、ドーナツをのどに詰まらせて窒息したのではなく、たまたま脳梗塞(こうそく)を発症したという詳細な証拠を出しているのです」
「高裁は、その証拠を採用しませんでしたが、理由として一審の有罪判決に重大な事実誤認があり、新たな証拠の検討に時間を費やすことなく速やかに破棄すべきだと言っています。これ以上、准看護師に負担をかけ続けるのはよくないと判断したからでしょう」
――起訴された准看護師は、捜査開始から無罪判決まで被疑者や被告人として約6年半、苦しい時間を過ごしました。
「被告になった准看護師は責任感の強い方で、自分が食事の手伝いに入った時に窒息したと信じ込んでしまい、遺族にも、そして警察にもそれを伝えていた。つまり、これは『誤った自白』に依拠した起訴だったのです」
「一般論ですが、米国では何か事故があっても『アイム・ソーリー』(ごめんなさい)とは自分が責任を認めたことになるので言わない。でも、日本では自分の責任でもないのに、つい『ごめんなさい』と言ってしまいます。病院や福祉施設で働く人は、自白に追い込まれやすい」
――なぜでしょうか。
「現実に人が亡くなったという…
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朝日新聞社会部