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 コロナ禍で、果たして演劇の公演が出来るのか――。悩み、苦しむ劇団員たちの姿を見て、北九州市八幡東区の小劇場「枝光本町商店街アイアンシアター」が、マスクのような紗幕(しゃまく)で覆った舞台を常設する新しい公演の形を提案した。劇場の貸出料を割安にし、キャンセル料は無料にする。劇団や観客と手を携え、演劇の灯をともし続けたいとの思いからだ。

 「いま演劇を作る状況に劇団がないんです」。アイアンシアターの運営責任者、森田正憲さん(41)は6月、付き合いのある劇団員からこんな言葉を聞いた。10月に予定していた北九州と東京での公演が、新型コロナの影響で中止になったと伝えてきた時だ。

 劇団員たちの学校や仕事の予定も大きく変わり、生活に打撃を受けている。そうした苦境を訴える中で出てきた言葉だった。

 森田さんは「このままでは劇団が潰れていく。劇場として何かせんといかん」と思った。コロナ禍でも公演できる舞台の案を考え、すぐに図面に書き起こした。完成したのが、ガーゼのような紗の生地で作った幕を蚊帳のようにつるして覆う常設舞台だった。

 野田秀樹さんら演劇や興行関係者らが立ち上げた「緊急事態舞台芸術ネットワーク」の感染予防対策ガイドラインに沿って、舞台と客席の間を2メートル離し、客席間も1メートル空けた。だがそれだけでは観客が安心しないと思った。

 舞台と客席の間に透明なビニールのシートをつるす劇場もあったが、照明が反射したり、役者のセリフが客席にうまく届かなかったりする問題もある。そこで考え付いたのが紗幕で舞台を覆うことだった。「紗幕が飛沫(ひまつ)を防止するとの医学的な根拠はないが、舞台との隔たりが目に見えることで観客の安心につながるのでは」と森田さんは言う。

 劇団が公演を打ちやすくするため、費用やリスクを抑える工夫もした。通常は3日間で12万円の劇場使用料を9万円にした。市内での感染拡大や劇団員の体調不良などの際には臨機応変に延期や中止の決断が出来るよう、キャンセル料をなしにした。

 北九州市の「文化芸術活動再開支援助成金」を利用すれば、劇場使用料の半額が補助される。公演の際、劇場が用意した消毒液などの感染症対策セットの利用などに使える1万円のチケットを購入する必要があるが、それと合わせても劇団の負担は3日間で計5万5千円に収まる。

 照明や音声の調整卓を設け、専門スタッフを雇わなくても劇団員が操作できるようにした。ネット配信用のカメラやパソコンを用意し、ライブ配信も出来る。舞台を常設にすることで、キャンセルされてもすぐに次の公演を入れられて、劇場のリスクも減るという。

 森田さんは紗幕をマスクに見立てて「いまはみんながマスクをしているので、舞台にも『マスク』をかけておく。このマスクの中で、新しくて面白い演劇を劇団や観客と作り上げていきたい」と利用を呼びかけている。問い合わせは午前10時~午後6時に枝光本町商店街アイアンシアター(080・3998・9007)へ。(吉田啓)