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 「バイデン氏は地に足が着いている。このあたりに多い労働者層にとっては、身近に感じられる人物だ」

 大統領選を左右する激戦州の一つ、ペンシルベニア州南部のヨーク郡で民主党委員長を務めるチャド・ベーカーさんはこう話す。

 2016年の大統領選では、ペンシルベニア州や中西部で、民主党を長年にわたって支持してきた白人労働者層の票が共和党のトランプ大統領に流れたことが、勝敗を決定づけた。ペンシルベニア州で生まれ、決して裕福ではない家庭で育ったバイデン氏の最大の強みは、こうした白人労働者層へのアピール力だ。

 これに対し、トランプ陣営は「バイデン氏が民主党内の極左に支配されている」と繰り返し主張し、労働者層からの支持を削ろうとしている。バイデン氏がハリス上院議員を副大統領候補に指名すると、トランプ陣営はその日のうちに「2人は極左を受け入れた」と、革新派のサンダース上院議員やオカシオコルテス下院議員の写真と一緒に映すCMを流した。

 トランプ陣営のバイデン批判の中でも多いのは、「バイデン氏が警察の予算を打ち切ろうとしている」という内容だ。5月末にミネソタ州ミネアポリスで白人警官が黒人男性を暴行死させてから、米国では警察への不満が噴出。ミネアポリス市議会は「今の組織のままでは改革はできない」として警察の「解体」を決議し、他の自治体でも「警察予算打ち切り」を求める声が広がる。

 バイデン氏自身は「警察予算の打ち切りには反対する」と明言し、これらの主張と距離を置く。だが、民主党内ではバイデン氏らがかつて進めた刑法厳罰化が、警察の過剰な暴力の使用につながった、との見方も多い。ブルッキングス研究所のジョン・ハダック上級研究員は、「人種や刑事司法制度におけるバイデン氏のかつての投票行動は、現在の民主党の立ち位置とは離れており、修正する必要がある」と指摘する。

 実際、党内ではリベラル派の勢いが増している。6月には、下院選の民主党候補者を決めるニューヨーク州の予備選で、重鎮のエンゲル下院外交委員長が新顔候補のボウマン氏に敗れる波乱があった。ボウマン氏を支援したのは、2年前の中間選挙の予備選でやはり重鎮議員を破って当選し、リベラル派の「顔」として躍り出たオカシオコルテス氏ら。陣営は「抗議デモの盛り上がりに乗った」としている。

 バイデン氏も、リベラル派に配慮は見せている。大統領候補者の指名を最後まで争った、サンダース氏との間では政策の合同作業部会を設定。オカシオコルテス氏らも加わった部会は7月、110ページにのぼる提言を発表。気候変動対策や経済、社会保障など幅広い分野で政策をすりあわせた。

 しかし、今後もバイデン氏がリベラル派に配慮しすぎれば、白人労働者からの離反を招きかねない。11月の大統領選まで、綱渡りのバランスとなりそうだ。(ワシントン=園田耕司、大島隆