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 混戦だった民主党の候補者選びを勝ち抜いたバイデン氏は、「史上最も経験豊富な大統領候補」と呼ばれる。だが、裏を返せば、言動が蒸し返される期間がそれだけ長い。

 大統領選への挑戦は1988年と2008年の選挙に続いて3回目だが、最初の2回は無残な結果に終わった。特に1回目は、英国の政治家の演説の無断引用が発覚し、予備選が本格化する前に候補者選びから撤退せざるを得なかった。

 上院議員として党派を問わずに多くの議員と交渉し、法律を成立させてきたのもバイデン氏の実績だ。しかし、その姿勢は今の有権者からは「理想を捨てた妥協」と見られかねない。バイデン氏は昨年6月、人種隔離政策に賛同していた上院議員との関係を振り返り、「同意する点は少なかったが、仕事は達成した」と述懐したが、同月の候補者討論会ではハリス氏がこの点を追及。バイデン氏も謝罪に追い込まれた。

 成立させた法律の評価も変わっている。1990年代には米国で犯罪が問題となり、バイデン氏らは刑法の厳罰化を実現させた。ただ、現在はむしろ警察による黒人への暴力の方が問題となり、「法改正が厳しすぎる取り締まりにつながった」という指摘がある。

 「失言製造器」と言われるほど、舌禍も多い。07年には、まだ候補者だったオバマ前大統領について「アフリカ系米国人では初めての主流派であり、頭が良く、クリーンで見た目もいい」と発言。今年5月も、黒人が司会を務めるラジオ番組で「私かトランプ氏の支持で迷っているのであれば、あなたは黒人ではない」と語った。当選すれば就任時に78歳と、史上最高齢の大統領になる不安もある。(ワシントン=香取啓介)

 米国では、新型コロナウイルスの対策などをめぐってトランプ氏への批判が強まり、選挙ではバイデン氏が優勢だ。政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による世論調査の平均支持率は9月1日現在、バイデン氏が49・0%、トランプ氏が43・0%で、6・0ポイントの開きがある。

 そんななか、バイデン氏はあまり表に出ず、トランプ氏のさらなる「敵失」を待つ戦略を取っている。選挙活動の大半はオンラインで、自宅を離れても、行き先は近隣に限定。感染対策を徹底してトランプ氏との違いをアピールするほか、失言などのリスクを避ける狙いがあるとみられている。トランプ陣営は「肉体的、精神的に大統領職に耐えられるのか」と攻撃しているが、今のところ効果はそれほど表れていない。

 今後、バイデン氏にとって課題の一つは、中間層とリベラル派の双方にどうアピールするかだ。今回の選挙では、4年前にトランプ氏が白人労働者層の支持を得て獲得した、中西部州が特に重要となる。バイデン氏はこうした地域を念頭に、製造業の復活やインフラ整備などを訴えつつ、リベラル派向けにはクリーンエネルギーの推進などを打ち出している。また、多様性を意識し、副大統領候補には黒人女性のハリス氏を指名。起用を発表してからの1日で、陣営は2600万ドル(約28億円)の寄付を集めたという。

 外交をめぐっては、米中対立の構造はトランプ政権と変わらないとみられる。ただ、バイデン氏は、トランプ政権が離脱を表明した世界保健機関(WHO)や地球温暖化対策のパリ協定に復帰し、日韓や北大西洋条約機構(NATO)加盟国など同盟国を重視する協調姿勢を掲げている。(ワシントン=大島隆、園田耕司)