安倍晋三首相が退陣を表明した翌日の8月29日夜。菅義偉官房長官は東京・赤坂の議員宿舎内の一室で、自民党の二階俊博幹事長、森山裕国会対策委員長と話し込んでいた。二階氏が安倍政権の継続性を念頭に「あんたしかいない」と語りかけると菅氏はこう応じた。「継続性はそうですね」。二階氏は菅氏のその言葉を立候補への意欲と受け止めた。
それから二階氏の動きは素早かった。翌30日午後、二階派(47人)の幹部が集まり総裁選の対応を話し合った。同派の河村建夫元官房長官は会議後、菅氏について記者団に「首相の残り任期についての責任があるのではないか」と話し、派として支持する姿勢を打ち出した。この時、すでにネット上やテレビで「菅氏、総裁選に立候補へ」との速報が流れ始めていた。
派閥に属さない菅氏が総裁選を勝ち抜くには、実力者の後押しと「数の力」が欠かせない。二階派が早々に支持を打ち出したこの日の夜、菅氏は周囲にこう意欲を口にしたという。「俺がやらざるを得ない。これで出なかったら、逃げたと言われちゃうよ」
長期政権で黒衣役に徹してきた菅氏だが、昨年4月に新元号「令和」を発表すると、「令和おじさん」として知名度が上昇。「ポスト安倍」の一人に数えられるようになった。一方で、首相への意欲を問われると「全く考えていない」と否定し続けた。
そんな菅氏が一転して有力候補に浮上したのは、安倍首相が後継含みで目をかけてきた岸田文雄政調会長の評価が上がらないことが理由だった。昨秋、岸田氏の幹事長への「昇格」を見送った首相は今年に入って以降、「岸田さんは化けないんだよね」と漏らすようになっていた。
これを好機とみたのが、二階…

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