拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

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 やるしかない環境を先につくってしまう。これも先延ばし改善には有効です。例えば、あえてノートパソコンの充電が少ない状態で仕事をする、仕事相手に締め切りを宣言する、といった具合です。臨床心理士の中島美鈴さんが解説します。

能力の高い人ほど?

 私が臨床現場やオンラインセミナーでお会いする方々から、最近一番おうかがいするのは「先延ばし」の悩みです。私の印象ですが、能力の高い人ほど、これなんです。

 ギリギリでもなんとか間に合わせることのできる能力があるから、でしょうか。

 一度痛い目にあっても、「まあ仕方ない。私はどうせ人から低い評価しか得られないから」とあきらめてしまうと、どんどん私たちの先延ばしは悪化していきます。

 中には、「悪いとわかっているけど、どうしても仕事に手をつけられない。でもあと1年もすれば異動になる。後任者、ごめん!」というとんでもない負の置き土産をする社員もいます。

 「絶対人に迷惑かけらんない!」とか「期限に遅れるとか、自分のプライドが許さない」とか、そういう自分の中でのギリギリの線引きが、どんどんずれていくと、歯止めが効かなくなるものです。これは怖いですね。

 そうなる前に(いや、そうなっちゃっていたとしても)、私たちが最終手段としてできることはこれです。

PCの充電はあえて半分

 「自分を過信せず、すぐに課題に取り組む『必然性』を用意する」

 先延ばしていた課題に取りかからざるを得ない「必然性」を作るのです。これには少々設定に慣れが必要です。たとえば、掃除の終わる時間に合わせて、友達を家に招待する約束をするとか、掃除しないと到底家に入りそうにない家電や家具を注文してしまうというのもよいでしょう。パソコン仕事の方は、充電が50%しかないノートパソコンのみ(充電ケーブルなし)を持ち込んで、慌てて仕上げる(体験談)。

 こんなやるしかない環境を自分で設定します。

 リョウさんは、開かずの間(本来の子ども部屋)の片付けで、高く売れそうな物を家族で見つける作業を続けています。リサイクルショップで売ったお金が、片付けのモチベーションアップに使えるというわけです。この時のポイントは、間違っても、フリーマーケットなどさらにあと一手間かかるような現金化をしないことです。

 私は「リコマース」というサービスをよく用います。自宅まで不用品を引き取りにきてくれて、後日査定結果がメールで届き、Amazonポイントとして返ってくるサービスです。このサービスの気に入っている点は、ネット申し込みの時点で、不用品を入れる段ボールを家に届けてくれる日時と、その段ボールに不用品を詰めたものを業者が引き取りにきてくれる日時を指定する必要があることです。こうして、最初に締め切りを決めることで、「必然性」が生まれます。「宅配便の人が、引き取りにきちゃう午後8時までになんとか詰め込まなくちゃ!」と大急ぎで片付けを強制的にできます。

 リョウさんの場合、次のステップでは、妹夫婦に泊まりで遊びにきてもらうというのもいいかもしれません。子ども部屋で寝てもらえるようにしないと部屋数が足りないからです。しかも、「妹」だけなら、リョウさんは身内だからと油断して片付けませんが、妹の旦那さんも一緒ということになれば、嫌でも片付けるのです。泊まりとなると、水回りの掃除やおもてなしのためのいろんな作業も必要になるため、ちょっとハードルが高すぎるでしょうか?でも「えい!」と約束してしまうと、なんとか乗り切れるものです。

 リョウさんの場合は、娘さんの学習机の発注をしてしまってもよいでしょう。片付けないと、机は家の中に入りません。これは強烈な必然性です。

先に期日を宣言

 リョウさんの夫も仕事場面でこの「必然性」を活用することにしました。

 どうしても気乗りしない仕事ってありますね。リョウさんの夫は、見積書を作ってその後取引先と交渉する仕事が嫌いです。見積書を作成する時に数字を間違えた苦い経験があるし、価格の交渉は取引先と、自分の会社の他の部署の人間の板ばさみのような心理状況で非常に気を使うからです。その結果、どうしても先延ばしてしまっていました。

 一方、取引先からすれば見積書をなかなか出さないリョウさんの夫を待っていることもできず、他社で契約してしまったこともあったようです。こうして先延ばしのせいでビジネスチャンスを逃していたのです。リョウさんの夫はそれに懲りて、取引先にこう宣言するようになりました。

 リョウさんの夫「明日の午後1時までに見積書を送りますので」

 こう期日を明確に区切ることで、自分の逃げ道を塞いでいたのです。この態度は取引先にも非常に好印象でした。必然性を設定しただけでなく、信頼を得ることでもできていますね。

達成できれば気持ちいい

 私はコーヒーショップで作業することが多く、朝にはドリップコーヒーのみを注文することが多いのですが、こんな利益にならない客の私に、店員さんは「一緒に食べ物もいかがですか?」と声をかけます。私は「(仕事の)ここまでってところまで進んだら、このチョコケーキ注文しますから!」と宣言します。すぐに買ってよと言われそうですが、自分なりのここまで進めるぞという場所まで終えてから、お代わりのコーヒーとチョコレートケーキを宣言通り購入するときのすがすがしさは、なにものにも変えがたい心地よい感情です。これまで執筆した本は、だいたいこの方法でコーヒーショップから送り出しています。みなさんにはどんな必然性の設定アイデアが浮かぶでしょうか?

◇このコラムの筆者があなたの先延ばし癖の改善を応援します。毎週土曜の朝、オンラインで実施です。詳細はこちらから。「働く人のための時間管理グループレッスン」(http://ptix.at/Ou2Bjb別ウインドウで開きます

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。