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 国連のSDGs(持続可能な開発目標)で、17の目標の一つに掲げられているジェンダー平等。日本は国際的に「遅れている」とされています。2003年に政府が「20年までに指導的地位の女性比率を30%に」と掲げた目標「2030」も、先送りされました。「女性リーダー30%」はなぜ遠いのか、現状を変えるためには何が必要なのか、考えます。

「指導的地位に女性3割」目標先送り 17年費やして現状1割

 政府が、指導的地位に占める女性の割合を30%にするという目標「2030(にいまるさんまる)」を断念したのは今年7月。来年度からの新たな男女共同参画の計画策定のプロセスで明らかになりました。代わりにこの割合を「20年代の可能な限り早期」に「30%程度」とするよう先送りする方針です。

 目標を掲げたのは2003年、小泉純一郎政権の時。17年経ちましたが、いまだに衆院議員や企業の管理職に占める女性の割合は1割にとどまっています。

 達成できなかったのはなぜだと思うか、デジタルアンケートで尋ねたところ、「家事やケアワークの負担が女性に偏りがち」「キャリアと家庭の両立支援が不十分」と指摘する声が目立ちました。

 ジェンダー平等な社会を目指すには、法律や制度、ルールを設計する意思決定の場に女性が参画することが重要です。議員選挙では120以上の国で、候補者や当選者について「どちらの性も40%を下回らない」などと法律で定めたり政党が自主ルールを設けたりする「クオータ(割り当て)」制が導入されています。欧州を中心に企業の役員会にもクオータを設ける国も。でも日本では議論が深まっていません。(岡林佐和)

まずは正社員の増加から 日本総合研究所理事長・翁百合さん(60)

 少子化対策や生産性向上について議論する政府の有識者会議「選択する未来2.0」の座長を務めています。7月に発表した中間報告書では、「女性登用に大胆な目標を」「年齢階層別の女性の正規職員の割合など、企業の取り組み実績の開示を」と提案しました。

 女性の正規雇用労働者比率は、20代後半でピークを迎え、その後低下を続けます。女性の労働力率が出産・育児期に低下する「M字カーブ」は解消されてきたものの、非正規雇用が多く、企業で指導的立場になるはずの正規雇用がそもそも少ないのです。コロナ禍で図らずもリモートワークができるようになったのを契機に、柔軟な働き方を可能にし、正社員を増やすことが大切です。

 出生率の高い国は、男女の労働時間差が少なく、男女がともに家事育児をする傾向があります。そこで男性正社員と専業主婦を標準とする「標準家族主義」からの脱却を提言しました。性別役割分担意識を変えるため、男性全員の育休取得も提言し、政府も取得促進策を検討しています。シングルマザーにもきちんと再分配をすべきです。

 数値目標を立てることに、「本質的でない」などの批判も承知しています。しかし、深刻な少子化の中、外部から牽制(けんせい)できるよう、数値で意識改革をする必要があります。

 ちなみに、普段の金融分野の政府会議と違って今回の会議には女性委員が多く、心強かったです。日本の未来に向けては、中高年男性だけでなく、男女も、若い世代も交じって議論すべきだと思います。(聞き手・栗林史子)

中央の動き、もっと加速を 岩手大学名誉教授・菅原悦子さん(67)

 研究者として40年以上、岩手で活動してきました。東京の大学院で学んだ後、「ふるさとをもっとよくしたい」と思って戻り、周りの協力を得て2人の子を育てながら、なんとか博士号を取得し、研究者として成果をあげることができました。でも家庭の事情などでキャリアを断念した女性を多くみてきました。

 地域で数少ない女性の研究者で、大学教授であったせいか、私には県や市の各種会議の委員などの依頼がたくさんきました。基本的に引き受けて、男性だらけの会議で臆せず発言してきました。女性の声を届けることが、岩手をよりよくすると思ったからです。東日本大震災後の復興を話し合う県の会議も当初男性だらけでした。「委員の3割は女性であるべきです」と県に訴えて、メンバー全員が女性の専門委員会が立ち上がりました。

 岩手大では2008年、男女共同参画推進室が立ち上がりました。室長として、女性教員を増やす数値目標を掲げ、単身赴任になる研究者夫婦が旅費等に使える「両住まい手当」制度や教職員が産休・育休取得しやすくなる制度を新設しました。

 地方では、女性はリーダーになりたがらないのが悩みです。岩手大では地域の中核となって、県内各地で女性リーダーの育成プログラムを実施しています。

 日本の歩みは遅すぎます。私が子育てしていた頃と比べて、環境が大きく変わっていません。地方も頑張るので、中央から女性リーダーを増やす動きをもっと加速してほしい。政府が「指導的地位の女性比率を30%にするのは無理」と課題を先送りしたら、どうやって地方の意識を変えられるのでしょうか。もっと早く女性リーダーを増やさないと、日本は後進国になるのではと危惧しています。(聞き手・伊藤恵里奈)

男社会の価値観、変えねば (株)uni’que代表・若宮和男さん(44) 

 登壇者の男女比の偏りが大きいイベントには出ません――。7月、そんな「宣言」をしました。

 大手企業に勤めていたころ、新卒採用の男女比はほぼ半々なのに、新規事業部はなぜか男性ばかりでした。女性から面白い提案があっても、決裁権者の男性たちがニーズを理解できず、アイデアが世に出ない。生かされるべき価値が目詰まりを起こしている状況を、もったいないと感じてきました。女性が能力を生かせるITベンチャーを起業したのも、そうした経験からでした。

 そんな自分も、ジェンダーギャップ(男女格差)の構図に加担してきた側だと気づいたのは、最近のことです。これまで、登壇者が男性ばかりのイベントに違和感があった一方で、自分が登壇を打診されるとすぐに快諾していたことには、疑問を持てていませんでした。

 でも7月、たまたま依頼が数件重なり、お断りする際に「いつも同じような顔ぶれだから女性やZ世代も入るといいですね」と伝えてみたんです。「考えたこともなかった」と驚かれました。悪意はないのに、無意識のバイアスによって格差の構図を上書きしてしまうのは怖いと痛感しました。

 「宣言」が好意的に注目されたことには若干のモヤモヤがあります。

 格差をなくそうと行動している女性は数多くいるのに、男性は言っただけで注目される。ある女性からは「自分が発信するとクソリプ(中傷や罵詈(ばり)雑言が並ぶリプライ)ばかり飛んでくる」と言われました。同じことを発信しても、受ける反応は男女でこれだけ違うのです。これも、見えていなかった点でした。

 状況を変えるためにも「2030」を先送りしている場合ではありません。一方で、女性の数を増やしていく際に重要なのは「価値観の軸が増えるか」という視点です。男性社会の価値軸のまま数値目標を達成しても、同じ軸に添った女性が増えるだけで多様性にはつながらない。例えば長時間働けることや、短期的な売り上げに貢献できることだけではない価値軸をもつことで、もっと柔軟性や強さのある社会になれると思っています。(聞き手・三島あずさ)

国会のクォータ制、議論必要 橋本聖子・男女共同参画相(55)

 完全にジェンダー平等な社会を5段階評価の5とすると、今の日本社会は2くらいですかね。3や4に近い分野もあれば、まだまだ努力が必要な分野もあります。例えば、男女共同参画社会基本法が成立した1999年からの約20年で、子育て期の女性の就業率が落ち込む「M字カーブ」の底、30~34歳の就業率は20ポイント超上昇し7割超に。とはいえ、政治と経済、特に政治分野の水準は、衆院議員に占める女性の割合が1割ほどと進捗(しんちょく)が見られず、「2030」は目標通り達成できない見通しです。

 95年秋にあった国連の第4回世界女性会議(北京会議)では、土井たか子さんや田中真紀子さんと一緒に行動しました。当時は当選2カ月の私が議員団に入れてもらえるほど女性議員が少なく、世界に比べて非常に遅れている実感がありました。その後、女性議員は増えてきましたが、現在もなお、結婚や出産がある中、女性候補が当選してキャリアを築いていくことは簡単でないと感じます。ロールモデルを示し、女性が立候補したいと思える政治環境を作り上げていかなければなりません。

 法律に頼らず女性議員を増やす取り組みは当然重要ですが、クオータ制を法律的に決めて「絶対にそうするんだ」とやっていくことも重要だと思います。最終的には各政党がどのような判断をするかということになると思いますが、早い段階で環境を整えようとすると法律を整備する必要性も出てくるでしょう。私個人はそう感じます。諸外国のクオータ制導入の状況を見ながら、しっかりと議論してもらいたいと思います。(聞き手・小野太郎)

「メディアに問題」「『男性特権』自覚して」

 「2030」が達成されなかった要因や、ジェンダー平等を進めるために必要なことについて、皆さんはどう考えているのでしょうか。フォーラムアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●メディアに意識の欠如

 人々の意識の形成に大きな影響を与える新聞社を始めとするメディアにおいて、意思決定層に女性が少ないことが問題です。番組作りや記事など、様々なところにジェンダーの意識の欠如があると思います。女性の管理職を増やす、職員にジェンダー研修をするなど、メディアで自主的に取り組みを進めてください。(東京都・30代女性)

●女性優遇で男性差別状態に

 私の職場では数合わせのために女性が採用や昇進で不当に優遇され、男性差別状態になっている。社会が強要する「男らしさ」の押し付けによって、女性と違って男性は差別されても声を上げることができない。(東京都・40代男性)

●育児支援の充実を

 能力的に優れた女性が育児によってキャリアからリタイアしていくのをたびたび見てきました。育児に対する国や地域の支援なくして、女性の社会での活躍は難しいかと思います。(埼玉県・20代男性)

●「女性は劣る」と思っていた

 女性の管理職や政治家の(比率の)低さから、自分自身が女性であるのに、女性は男性よりも劣っているのではないかと思っていた時期があります。女性自身がこのように思い込んでしまう社会は、とても問題があると思います。(神奈川県・10代女性)

●スタート地点で引き上げ必要

 男性特権をあまりにも自覚していない男性が多い。女性が政治家や自治会の役員などに少ないことを、女性がやりたがらないから、選ぶにも女性がいないからと、スタート地点に引き上げることさえできていないことを自覚し、どうすべきかを真剣に考えないといけないと思います。(大阪府・50代男性)

●個人の適性を見て

 いわゆる難関大の出身ですが、女性である自分が男性と肩を並べて頑張ろうとすると、「そんなに無理しなくていいのに」といわれ、気力をそがれる経験をしてきました。それなのに、女性リーダーを増やそうとする動きに対し、世間は「能力や意欲のある女性がいない」。意欲を奪ってきたのは誰ですか? 経営者や上司は男女平等にチャンスを与え、個人個人の適性をしっかり見ていただきたいです。(東京都・20代女性)

●「末端」まで平等、まだ先

 ローカルルールはいまだ男性社会。学校の役員も、スポーツクラブの親の役割も、男女の役割が明確に分かれていて、もはや提案できる雰囲気はない。地域性なども強くあると思う。男女平等が末端までおりてくるのは、まだまだ時間がかかると思う。(大阪府・40代女性) 

●性別以外の格差にも目配り

 社員10人足らずの小さな企業の経営者ですが、男女の格差をなくす中で、それ以外の属性による格差にも目配りができるようになって、顧客サービスも向上できた。(香川県・40代女性)

●「活躍」ではなく平等な待遇を

 「女性の活躍」ではなく、「女性と男性が平等な待遇のもとに労働、消費、生活する」ことを女性は望んでいる。「女性による男性の活躍の推進」と聞いて、憤りを覚える男性はいると思う。それと同じことが、女性に行われている。(東京都・20代女性) 

●法的な義務づけを

 意識が変わるからジェンダー平等が実現されるのではなく、ジェンダー平等を目の当たりにして初めて意識が変わるのである。法的強制力なくして旧体制が変わることは難しい。政治、地方自治体、大企業から法的に義務付けて実行すべきだと考えます。(東京都・40代女性) 

●仕事回らず

 妻に家事育児を押し付けなければ仕事が回らないです。(千葉県・50代男性) 

●政府の意欲は

 そもそもジェンダー平等の達成を目指そうという意欲が政府にないと感じる。他国では、指導的地位にある女性の割合を上げるための具体的かつ効力のある取り組みが見られる一方で、日本の計画が具体性を欠いていることがその表れだと思う。2030の目標を設定してから17年もの時間があったにもかかわらず、達成されなかったということを踏まえると、現在の「なんとなく」目標達成を目指すという姿勢ではジェンダー平等は永遠に実現されないと思う。(静岡県・20代女性)

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 ジェンダー平等の先進国・ノルウェーを訪ねた6年前、当時の男女平等大臣に10分だけ会うことができました。なぜノルウェーは変われたのか?と聞くと、彼女は早口でこう言いました。「人々の意識を2歩、先取りした制度をつくる。すると人々の意識が変わる。そしてまた2歩先の制度をつくる。その繰り返し。決して5歩や10歩先ではなくて、2歩先がポイントなのです」

 #MeToo運動の広がりもあり、ジェンダー平等への意識はここ数年で広く共有されるようになってきました。「どちらの性別も4割を下回らない」といったクオータ(割り当て)制の導入は、そろそろ日本の「2歩先」に来ているのではないでしょうか。(岡林佐和)

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 自民党総裁選を経て首相が交代します。働き方、子育て支援、介護の分野で新政権に急ぎ要望したいことはありますか。asahi_forum@asahi.comメールするへどうぞ。