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 憲政史上最長の第2次安倍晋三政権がまもなく幕を引く。若者の支持率が高かったのは、この政権の目立った特徴だった。文筆家の鈴木涼美さん(37)は、若い世代を含めて、安倍首相が長きにわたって支持を集めてきた背景を、首相の「かわいさ」への「ゆるふわ」な支持という視点から読み解く。

拡大する写真・図版文筆家の鈴木涼美さん

 安倍さんが長く支持されるに至った強みは「かわいさ」にあった。坊ちゃん育ちの保守政治家で、エリート左派のような冷たさがない。政策とは別文脈で人間的にチャーミングだと思わせる魅力、求心力があったのだろう。人としてどこか憎めない感じは、米国のトランプ米大統領やブッシュ(子)元大統領にも共通する。

 すずき・すずみ 1983年生まれ。日本経済新聞記者を経て、文筆家に。著書に『「AV女優」の社会学』『オンナの値段』『非・絶滅男女図鑑』など。

 人気アプリ「TikTok(ティックトック)」で安倍さんのお茶目(ちゃめ)な動画が流行したり、辞任会見にコメントが寄せられたりするのを見ていると、大塚英志さんの著書『少女たちの「かわいい」天皇』で、昭和天皇を「かわいい」と評した少女たちを思い出す。

 「かわいい」という言葉はもとは「いたいたしい」という意味を含み、無力で無害なものに対して使われることが多い。疑惑や失敗が大きなマイナスにならなかったのは、彼の求心力が有能さや信念ではなく「かわいさ」に基づいていたからだ。舞台で転んだアイドルに声援を送るように、無条件の支持が集まった。

 14日の自民党総裁選で当選が有力視される菅(義偉官房長官)さんも「令和おじさん」で顔を売り、いまは「パンケーキ好きの甘党」であるキャラを前面に出している。彼も「かわいい」ことが、自分への支持を広げるための強力な武器になると自覚している一人かもしれない。

拡大する写真・図版記者会見で自民党総裁選への立候補を表明する菅義偉官房長官=2020年9月2日

 私は民主党政権が始まった2009年に大学院を出て新聞記者になった。民主党政権の未熟さと安倍政権しか知らない、同年代や年下に当たる20~30代には、たとえば「護憲」はほとんどいない。安倍さんの掲げた改憲に抵抗を示さない若者は思想として保守化したというより、「時代に合った新憲法を自分たちでつくるのは当たり前のことでしょ」ともっと素朴で無邪気な反応が多かった。彼らからしてみれば、私なんて、時代遅れのリベラルおばさんに映っているかもしれない。

 「女性が輝く社会」も掲げたがスローガンだけ立派で、それがどんな社会なのか、政権トップの誰も想像できていなかったのではないか。高齢男性ばかりの政治家の家庭像は画一的で、家事や育児、仕事やキャリアの問題に日々もがいている女性たちの思いが分からない。

拡大する写真・図版安倍晋三首相(手前右から2人目)と記念写真を撮る「桜を見る会」の参加者たち=2019年4月13日

 安倍さんたちにとって身近な女性は、才能や家柄、そして運にも恵まれたエリートの女性政治家、でなければ自分の母や妻に多い専業主婦でしょう。だから、コロナ禍でシングルマザーの貧困がいかに深刻なものになっているか、お手伝いのいない共働きの家庭にどんな支援が必要だったかが想像できていない。アラフォーの私からすると、「私も結婚したい。子どもを産みたい」と思うようなロールモデルがほとんどいない永田町や霞が関から、少子化を止めるような政策は出てくるはずもない。例えば、夫婦別姓や同性婚は、彼の目指す「美しい国」とも矛盾せずに実現できたはずだが、支持基盤の一部が嫌うことであっても、現実的に求められている政策を進めるような力強さは見せてくれなかった。「アベノミクス」を評価する声は多いが、そういう政権トップの目からこぼれるような人たちが豊かさと幸福を取り戻したかといえば疑問符が残る。

 でも、SNS時代は、そうした社会問題を告発する切実な声と、「安倍さんは頑張っている」といった「ゆるふわ」な声が同列に並ぶ。選挙に行かない人も含めた漠然とした支持の声は、本来、あまりまともに受け止めなくてもいいものだと思う。ただ、批判ばかりのリベラル野党は「うざい」「エリートの綺麗事(きれいごと)」と思われてしまっているのを自覚しないと、「ゆるふわ」な支持に勝つことはできないだろう。

 退陣の理由とされた病気はお気…

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