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 兵器級の神経剤「ノビチョク」系の毒物を盛られたとされるロシアの反政権活動家アレクセイ・ナバリヌイ氏について7日、意識が回復したと、同氏を治療するドイツの病院が発表した。ただ、長期的な後遺症の有無は不明としており、活動再開の見通しは見えない。13日には、同氏が反政権票の結集を訴えていた統一地方選が予定されており、リーダー不在のなか、反政権票の動向にも注目が集まる。

 ベルリンのシャリテ大学病院によると、ナバリヌイ氏は治療のための人工的な昏睡(こんすい)状態を脱し、問いかけによる刺激に反応しているという。人工呼吸器も外せるようになった。一方で、「中毒症状の長期的な影響を見極めるのは時期尚早」としており、回復後も重篤な後遺症が残る可能性がある。

 プーチン政権批判の急先鋒(きゅうせんぽう)として知られるナバリヌイ氏は近年、選挙で政権与党候補の当選の阻止を目指すキャンペーン「賢い投票」に力を入れていた。党派を問わず、与党系以外で最も当選の可能性が高い候補に票を集中させる戦略だ。昨年9月のモスクワ市議選では、与党勢力の議席を改選前の3分の2に減らす原動力の一つとなった。

 ナバリヌイ氏は9月13日の統一地方選でもこのキャンペーンを展開し、8月18日、自身のブログで「賢い投票」先の候補者リストを公表。候補者の支援で各地をまわっていたが、ロシア中南部オムスクで市議選の候補者を応援した翌日の8月20日、モスクワに向かう機中で意識を失った。

 キャンペーンはナバリヌイ氏の支持者らが続けている。事件後は同氏の容体や原因に焦点が集まり、投票の呼びかけに以前の勢いはない。ただ、「事件でクレムリンのイメージは悪化し、むしろ反政権票の増加につながる」(アレクセイ・マカルキン政治工学センター副所長)とする見方も少なくない。

 一方、毒物の特定やロシア政府の対応を巡り、ロシアと欧米との溝も深まっている。

 ナバリヌイ氏はロシアの病院を経て、シャリテ大学病院に転院。今月2日、ドイツ政府が軍の研究機関の調べで、旧ソ連で開発されたとされるノビチョクの一種の毒物が使われたと断定した。

 ドイツの発表を受け、米国や英国、フランスなどの欧米各国や、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)などが相次いで事件を非難し、ロシアに徹底した捜査を要求した。6日にはドイツのマース外相が、ロシアが事件解明に協力しなければ、ロシアの天然ガスを欧州に輸出するパイプライン「ノルドストリーム2」の計画見直しもあり得ると示唆。ドイツ政府は、パイプライン計画と事件は切り離して考えるとしていたが、より強い姿勢でロシアに対応を求めた。

 ロシアは、「ドイツとの完全な協力の用意がある」とする一方、国内での検査で毒物は検出されなかったと主張を強めている。外務省のザハロワ報道官は7日、国営メディアのインタビューで、「ドイツは(毒物の)具体的なデータを何も示さず、政治的なデマに利用している」と反発した。(モスクワ=石橋亮介、ベルリン=野島淳)