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 仕事、恋愛、人付き合い。人生の様々な難題に直面した時、人は自身を奮い立たせ、力を得ようとして自己啓発本を手に取る。一連の本の中でも近年よく売れたのが『嫌われる勇気』だ。しかし、中身を読み解いていくと、悩める現代人の指針となる一方で、常に変化を余儀なくされる時代の過酷さも透けて見える。

拡大する写真・図版韓国・ソウルで開かれた『嫌われる勇気』関連の講演会で登壇する、著者の岸見一郎さん(中央右)と古賀史健さん(同左)=2015年3月、ダイヤモンド社提供

 哲学者の岸見一郎さん(64)は30代の時、ある精神科医の著書に触れ衝撃を受けた。オーストリア出身のアルフレッド・アドラー(1870~1937)。精神分析学の創始者フロイトと一時ともに活動し、ウィーン市に児童相談所を設立した人物だ。

 彼が提唱した「アドラー心理学」は、あらゆる悩みが対人関係に起因すると考える。誰かに認められたいという感情は自由な生き方を阻むとして退け、相手と対等に付き合うため、褒めたり叱ったりしない。このような解釈は、岸見さんの専門であるギリシャ哲学の「常識を疑う」という姿勢と重なった。自身の育児に応用しながら著書の研究や翻訳を続け、1999年に入門書まで出版した。

アドラーの価値観に励まされた

 ライターの古賀史健(ふみたけ)さん(47)は同年、その入門書を書店で偶然手に取る。「人生は意志で変えられる。自らが未来を開く可能性を説くアドラーの価値観に励まされた」。バブル崩壊以来の不況下で雇用が不安定化するなど経済格差が広がり、苦境に陥る層を「自己責任」と切り捨てる風潮が強まる中、人々の支えになるとも感じたという。

 古賀さんは岸見さんとの共著企画を出版社に持ち込む。古代ギリシャの哲学者プラトンが著したソクラテスの対話編を意識し、周囲と打ち解けられず悩む「青年」が、「哲人」とアドラー心理学を巡り激論を交わす構成だ。

 担当編集の柿内芳文さん(41)は「本を作るにあたり、他者とつながらざるを得ないという、社会的な存在としての人間を念頭に置いた。そのことで生じる、対人関係の不和といった問題と向き合うヒントを提示したいと思った」。2013年、『嫌われる勇気』として刊行すると国内外で500万部以上売れ、書籍原案のドラマも放映された。

 総務省によれば10年以降、スマートフォンが急速に普及。SNSを介した売買春が問題になるなど、見知らぬ第三者に心のよりどころを求める傾向が表れてきた。「人間関係が多様化する社会で、同書が『誰から何により認められたいのか』と考え直し、本心と向き合うきっかけになった」と古賀さんは語る。

記事の後半で『夢をかなえるゾウ』の著者がアドラー本を分析します。

人生の責任を自分で持つ

 読者は、その中身をどうとらえているのか。公認心理師の高橋雄太さん(35)は、同書がきっかけでアドラー心理学の学術団体・日本個人心理学会に入った。物語後半、青年が理解しようと奮闘する、他の人を仲間と見なす概念「共同体感覚」は、カウンセリングの手がかりになるという。

 「アドラー心理学に基づき不安…

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