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 ドキンと胸が鳴った。母の住む東京・新宿のマンションを出た時だ。曇り空の下、1階ベランダの柵に黒い塊が見えた。「間違いない」。待ちつづけたカブトムシ。60歳だというのに、渕端浩二さんはうれしさで鳥肌が立った。そっと捕まえ、腕に乗せると、食い込む爪が痛い。ちょっと小ぶりのメス。金色に輝く産毛に見とれた。

 すぐ部屋に戻り、にんまりと母の陽子さん(87)に腕を突き出した。「誰かが買ってきたのが、逃げたんじゃないの?」「いや、これだけ動くのは野生だよ」。7月末の夕暮れ時。カブトムシは黒一色のようでいて、光の当たり方で様々な輝きを見せる。腕の上を行き来する姿に見入った。

 子どもの頃から昆虫が好きだった。中でも引かれたのがカブトムシ。力持ちだが、好戦的ではない。いわば守りの強さ。その熱は年をとっても冷めず、自ら営む建設会社の地方出張で雑木林を見つけると、つい立ち寄って葉っぱや土を掘り起こしてしまう。「早くしてくださいよー」という部下の声にせかされ、捜索はいつも30分ほどで打ち切りに。だったら、自分のほうにカブトムシを呼ぼう。しかも都会の真ん中で。11年前、思いついた。

 母が住む13階建てマンション…

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