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 新型コロナウイルスの全国の感染者データをオンラインで管理、自治体なども共有できる国の新システムが、十分活用されていない。感染状況を素早く把握する切り札として5月に稼働したが、保健所の負担軽減のカギを握る医療機関による入力が広がらず、データの正確性にも課題が残る。感染拡大を防ぐ対策に欠かせない情報の共有と活用は道半ばだ。

新システム「ハーシス」、5月稼働

 新システム「HER―SYS(ハーシス)」は感染者の発生や入退院などの情報をオンラインで入力。感染者一人ひとりの症状の変化や入退院など経過を素早く、一元的に把握できるのが特徴だ。

 従来は、感染者を確認した医療機関が手書きの「発生届」をファクスなどで保健所に送り、保健所が厚生労働省や国立感染症研究所とつながる「感染症サーベイランスシステム」(NESID〈ネシッド〉)に入力していた。

 しかし3月以降の「第1波」の流行時、業務が集中した保健所で情報の収集や入力が滞った。ネシッドは感染者の症状の変化や経過は追えない。ネシッドに情報がない濃厚接触者の調査などは、保健所同士が電話やファクスなどで個別に調整していたが、ファクスが通信中で情報がすぐ届かず、相互の連絡や行政への報告が遅れるなどした。

 それを解決するのがハーシスで、ネシッドに入力していた発生届に加え、感染者の入院、宿泊療養中といった経過、濃厚接触者の情報など、必要なデータをすべてシステムに打ち込めるようにした。ネットを通じて国や都道府県、保健所双方が共有でき、国や自治体の対策に生かすことが期待された。主に医療機関が入力することで、保健所の負担軽減も目指した。

 費用は感染拡大を防ぐシステム整備などとして1次、2次補正予算に盛り込まれた計約23億円の事業から出ている。厚労省は現時点でハーシスにどのくらい支出したかは明らかにしていない。

 5月下旬から導入が始まり、保健所を設置する全国155自治体すべてに入力や閲覧権限が与えられた。

厚労省「利点多い」と強調

 ハーシス導入の利点は多いと厚労省は強調する。例に挙げるのが沖縄県。医療機関での入力が普及し、保健所や県の素早い情報の把握や公表につながっているという。医師も患者の情報がすぐに探せて経過が追える点などにメリットを感じているとする。

 しかし、当初参加に慎重だった自治体があり、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は7月の会見で、感染防止策を取るうえで即時のデータ収集が重要と指摘、「感染が拡大しているのにデータが遅いことが起こり続ける。早急に解決してほしい」と訴えた。

 全自治体で利用が始まったのは9月中旬だ。オンラインで感染者の情報を管理することに、多くの自治体で個人情報保護条例による審査手続きが必要となったためだ。厚労省の担当者は「個人情報保護の審査にこれほど時間がかかるのは想定外だった」と漏らす。

 さらに肝心の医療機関による入力は、感染者が多い都市部で広がっていない。都市部の複数の保健所の担当者は「忙しい医療機関に入力を押しつけるわけにはいかない」と話す。

 東京都では多くの保健所が医療機関から発生届をファクスで受け取り、ハーシスに入力している。都の担当者は「システム入力に習熟するのは簡単ではなく、日々の診療で忙しいなかで医療機関の負担にもなる。正確な情報を入力するためにもまずは保健所で集約して入力している」。横浜市も医療機関による入力は2割に満たず、残りは保健所の職員が打ち込む。大阪府でも保健所が発生届を入力している。医療機関にシステムが導入されて混乱が生じれば医療体制に影響する恐れがあると、府から通知があったという。府の担当者は「医療機関にとって入力は手間。入力した情報の確認などで混乱する恐れもある」と話す。

 結果的に保健所の負担軽減にはつながっていない。

「電話のほうが…」 データの精度も不明

 ハーシスはネシッドより感染者の経過など入力項目が多い。入力欄は最大120~130項目にのぼる。関東地方のある保健所の担当者はこぼす。「ハーシスは国がデータを吸い取るための便利グッズでしかない。保健所の業務量は増えるだけだ」。こうした不満の声を踏まえ、厚労省は今月、項目に優先順位をつける方針を示した。発生届に書く情報や、現在の患者の状態など最優先に入力する項目を40程度に絞る。入力の負担を減らし、必要最低限の情報を素早く、確実に入力してもらうように促す。

 また、ハーシスへの不満はシス…

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