第2回「お願い、歌わせて」 ベトナムのレディー・ガガの叫び

有料記事アメリカ大統領選2020

ハノイ=宋光祐
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 自由や民主主義を世界に広める。米国の歴代政権の外交にはそんな理想があった。だが、自国の利害にしか関心がないトランプ政権の4年間で輝きは失われた。非民主的な国々への圧力は弱まり、体制に異を唱える人々は途方に暮れる。

 「くそったれトランプ」。ベトナム人の女性歌手ド・グエン・マイ・コイさん(36)は2017年11月、就任後初のアジア歴訪のためにベトナムを訪れたトランプ大統領の車に向かって、ハノイの路上で抗議の横断幕を掲げた。

 その前日、中部ダナンで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、トランプ氏は貿易不均衡の是正を訴えるばかり。東南アジアで後退する民主主義や人権の問題に触れることはなかった。

 共産党一党支配するベトナムでは、街頭デモは認められていない。マイ・コイさんが危険を覚悟の上で行動を起こしたのは、ベトナムに来ても、自国の利益しか頭にないようにみえるトランプ氏への怒りが抑えられなかったからだ。

 帰宅すると、アパートの大家から雇われたという男女2人組が待っていた。部屋に入るのを妨害され、荷物も持ち出せないまま友人らの家を数日間転々。警察とみられる人物にも追われ、アパートは引き払わざるを得なかった。

立候補したスターは、歌う場を失った

 その7年前。国営テレビの2010年の年間最優秀アルバム賞に選ばれ、ベトナムで一躍スターになった。挑発的な歌唱スタイルから、欧米のメディアから「ベトナムのレディー・ガガ」と呼ばれた。若者の人気は絶大だった。

 政治に関心があったわけではない。ただ、曲を作るたびに政府の検閲を受けるのが我慢できなかった。アーティストとして息が詰まる現状を何とかしたいと思い、16年2月に国会議員の選挙に立候補を決意した。

 だが、候補者を審査する共産党の関連組織が立候補を認めなかった。決定に抗議すると、警察にライブを中止させられ、テレビ出演も声がかからなくなった。ベトナムで歌う場所を失った。

 16年5月、米国のオバマ大…

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