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 トヨタ自動車が今年8月末に発売した、新しい小型SUV(スポーツ用多目的車)「ヤリスクロス」。国内マーケット売れ筋ど真ん中のカテゴリーに、量販ハッチバック「ヤリス」の派生モデルで駄目押しのマーケット総取りを狙う。その出来栄えやいかに? 試乗で探った。

昭和のカローラ風?

 ヤリスクロスは、今年2月にグローバルネームをひっさげて全面改良された新型「ヤリス(旧ヴィッツ)」をベースに、車高を上げてSUVに仕立てた派生モデル。

 スタイリングは、パーソナルなスペシャリティーカーのテイストを色濃く感じる。

 大きく寝たテールゲートに、車格には分不相応にすら感じる18インチの大きなホイール。その破格のタイヤを収めるべく、四隅に大きく張り出したフェンダー。これらが相まって、スタイリッシュさと適度な迫力を打ち出す。

 フロントマスクは、見る角度によって違う表情にも見える、捉えどころのない顔立ち。目鼻立ちが比較的ハッキリした最近のトヨタ車の中では異色だ。どことなく海獣、なかんずくマッコウクジラを思わせる。

 インテリアは、廉価版が黒一色でモール類もブラック樹脂の地味なタイプと、豪華版がブラウン&アイボリーのツートン色、という二択。このツートンはちょうど、昭和の「カローラ/スプリンター」にあった女性向けグレード「ライム/リセ」の内装色を思い出させる地味なもの。後者の豪華版は、より若々しくて明るい色合いにするか、できることなら複数のカラーバリエーションから選べるようにしてほしい。

 平成の初めぐらいまでの国産車は、内装色もブルー基調やワインレッド基調など、外装色との組み合わせを含めて自由に選べたものだが、最近はお仕着せの単一カラーがほとんど。ここにも、業界全体の合理化トレンドが垣間見える。

非力ながら高い質感

 パワートレーンによるバリエーション分けは、純ガソリン車/ハイブリッド車(HV)で、それぞれ前輪駆動と四輪駆動が選べる。エンジンはどちらも、ターボが付かない1.5リッター3気筒。ヤリスに用意されるマニュアルトランスミッション仕様はない。

 1気筒あたり500ccを一つの最小ブロックと捉え、それを三つくっつけて3気筒の1.5リッターとする。これが、シリンダーを極力減らし、かつ最も燃費効率が良い排気量を追求した最適解、とトヨタは胸を張る。

 ガソリン車に乗ると、確かに軽自動車の3気筒660ccと比べても効率の良さは歴然。アクセル開度を抑えてのんびり走る分には十分だ。

 ただ、高速道路での追い越しといった場面では、エンジンがうなる一方で思うような加速が得られない。CVTは十分に洗練されているので、やはり車体の重さに対してエンジンの地力が弱いと言わざるを得ない。価格上昇を嫌って導入を見送ったのだろうが、やはり快活に回る小排気量ターボのほうが、このクルマには望ましいと感じた。

 一方で、これにモーター出力が丸ごと乗っかるHV版は加速もスムーズで、静粛性も申し分ない。

 そして特筆すべきは、車体剛性の高さとハンドリングのシャープさ。

 すでにヤリスで採用している、高評価の新世代プラットフォーム「TNGA」に、今回さらに補強を増やした。ヤリスのシャシー設計時からこの派生SUVへの流用は織り込み済みで、高い拡張性を持たせた設計によって開発コストも抑えられたという。

 そんな高剛性シャシーはサスペンションがよく動き、乗り心地は若干硬いが踏ん張りの利く大径タイヤと相まって、高速巡航でも不安なところがない。この剛性感あふれる乗り味は、明らかに一つ上のクラスの質感だった。

懸念される社内競合

 ただ、この高い完成度を目の当たりにして気になってしまうのが、同じトヨタ社内での他車種との競合だ。

 トヨタの小型SUVラインアップにはすでに、より上級な「C-HR」や、ダイハツ工業がOEM供給する「ライズ」がある。さらに一回り大きな車格だと、これまた販売好調な「RAV4」が控えている。

 試乗の場で、開発責任者に率直に尋ねてみた。

 「社内に同カテゴリーの先行車種が複数あるので、競合を避けながら開発するのは難しかったのでは?」

 すると、逆に難易度は低くなる、との意外な答えが返ってきた。

 「先行車種と違う路線で作れば良いので、逆に、新車種の方向性は明確に定まってくる」というのが、その理由だ。

 SUVはそもそもが、昔からあるハッチバックやRV(レクリエーションビークル)、それにスペシャリティーカーの要素も併せ持った、多様なルーツからなるカテゴリー。それゆえに、「RV風味濃いめ」「クーペ風味濃いめ」といったように、車種ごとの味付けのバリエーションは作りやすいのかもしれない。

トヨタの決意と気迫

 トヨタは今年5月から、長らく販売車種をすみ分けていた系列店のシステムを改め、どの店舗でもすべてのトヨタ車を扱えるようにした。

 かつては「マークⅡ」と「チェイサー」、「ターセル」と「コルサ」など、系列店ごとに違う兄弟車を投入することで直接の競合を避けてきたが、今ではどこかトヨタ系列のディーラー1カ所に行けば、SUVだけでも様々なキャラクターや価格帯の中から、自分に合った一台を選ぶことができる。

 いまや国内の自動車販売台数は頭打ちで、トヨタはカーシェアリングやサブスクリプション(定額制)サービスの拡充や、自動化による次世代交通サービスの研究開発によって「モビリティカンパニー」への転換を図ろうと躍起だ。

 その一方でトヨタは、同系列すらライバルとなる苛烈(かれつ)な販売競争でも、手綱を緩める気配がない。

 売れ筋カテゴリーへの集中投下によって顧客の「トヨタ以外」の選択肢を断つことで、限られたパイのすべてを取りにいく――。新型ヤリスクロスは、そんなトヨタの決意と気迫を感じる一台だった。(北林慎也)