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 伊藤裕季也は、ルーキーだった昨シーズンを厳しい言葉で総括する。

 「シンプルに力不足。ぼくが1軍で野球をやれる力はまだまだ何ひとつないな、と」

 デビューは鮮烈だった。初めて1軍に昇格した昨年8月、初スタメンの中日戦で2本塁打。しかし、その後は「調子の波が激しくて」。発射台が高かっただけに、やや尻すぼみの感は否めなかった。

 真に1軍に値する選手となるための「最低限必要」な技術として、春季キャンプでは内野守備力の強化に励んだ。

 「いちばん変わったのは打球への入り方、合わせ方ですね。去年にはなかったものが自分の中にあります」

 かたや持ち味の打撃については迷いを深めていた。昨オフ、フォーム改造を試み、当初は手ごたえを得ていたが「何かがズレてきた」。オープン戦では20打数3安打。「やっぱりこうなるよな」。薄まっていた自らに対する期待感そのままの結果だった。

 転機は7月半ば。大村巌ファーム打撃コーチによるつきっきりの指導が若きスラッガーの思考を覆した。キーワードは「バットの通り道」だ。

 「通り道をしっかりとつくって、あとは普通にバットを振るだけだ、と。自分が思っていたのとは逆だった」

 伊藤はフォームや構えに試行錯誤を繰り返していた。インパクトの瞬間に重きを置き、スイング軌道に対する意識は漠然としていた。

 ところが大村は、軌道こそが大事だと言ったのだ。フォーム、構え、インパクトは先に「決める」ものではない。理想の軌道をものにしさえすればおのずと「決まる」。そんなふうに意識が転換した。

 「なぜこういうバットの出し方をするのか。大村さんが教えてくれたその意味を、自分でも解釈して、繰り返しながら進んでこられた。いままでになかったヒットが出るようになったし、調子が悪いときもその原因を細かく自己分析できるようになってきました」

 密着指導は7月16日から3日間にわたった。成果は19日のイースタン・リーグ、日本ハム戦で早くも出る。五回に今シーズン第1号を放ち、九回には右越えの2ラン。24歳が言及するのは後者だ。

 「抜けてきた変化球。去年までなら引っ張ってサードゴロか、よくてレフト前だったけど、引きつけて、内からしっかりと強いスイングができました。これまでにはなかった体の感覚と結果だった」

 9月、大和の負傷を機に、伊藤はようやく今シーズン初の1軍昇格の機会を得た。出場機会は限られているが、「とにかくアピールすること。生き残って、レギュラーをとるために安定感を追い求めていきたい」と話す。

 新人だった1年前、10点満点中10点だったという自信は徐々にすり減り、いまや「3」だと伊藤は言う。

 「去年は何もわかっていなかったし、失敗も怖がっていなかった。いまは、何か根拠があって湧いてくる自信というものはほぼないです」

 根拠なき自信「10」から、根拠を伴う自信「3」へ。

 後退ではあるまい。堅実な成長への第一歩だ。(横浜DeNAベイスターズ公認ライター・日比野恭三)