拡大する写真・図版佐伯啓思・京都大学名誉教授

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 さえき・けいし 1949年生まれ。京都大学名誉教授。保守の立場から様々な事象を論じる。著書に「死と生」など。思想誌「ひらく」の監修も務める。

異論のススメ・スペシャル

 安倍晋三前首相の突然の辞任により7年8カ月に及んだ長期政権は幕を下ろした。ここでは、安倍政権の成果についての具体的評価ではなく、この政権が携わった8年近くの時代的状況や文明的状況との関連においてこの政権のもった意味について書いてみたい。

 疑いもなく、近年、これほど「仕事」をした政権はなかった。健康不安を抱えながら驚くべき活動量であった。特に経済と外交、安全保障においてはそうである。

 アベノミクスは、あらゆる経済政策を総動員した。また「地球儀を俯瞰(ふかん)する」外交は、世界中を飛びまわった。トランプ米大統領との親密な関係だけではなく、ロシアのプーチン大統領ともそれなりの信頼関係を築き、主要国首脳会議においても存在感を示した。

 安全保障に関していえば、集団的自衛権の行使を一定限度内で明文化する「安全保障関連法」の成立や、とりわけ東アジアの情勢を鑑みた上での緊密な日米同盟の強化がある。

 これらは、賛否はあるものの、安倍政権でなければ成しえなかった「仕事」である。だが、それでどうなったのだろうか。アベノミクスは、確かに一定の成果はもたらした。経済状況は明らかに上向いた。だが、これほどの規模の金融緩和と財政政策、それに多様な成長戦略を考えれば、とても十分に成果をあげたとはいえない。

 世界中を股にかけた外交によって、日本の国際的な評価は高まった。だがそれにもかかわらず、それが、日本や世界に対して何をもたらしたのかと問えば、答えに窮する。トランプ大統領との親密な関係および日米同盟の強化は、一定の現実的成果といえようが、なにせ相手がトランプ氏であれば、この関係を無条件で肯定できるかといえば疑問もでるだろう。

 集団的自衛権の行使を一定限度内で明文化したことは、確かに現実的で重要な「仕事」であったが、集団的自衛権の明文化によって、逆に、安倍氏の悲願であった憲法改正の必要性を弱めてしまった。皮肉な結果である。

 間違いなく安倍氏は、次々と出現する問題に現実的に対処し、行政府の長として、近年にない指導力を発揮したといってよい。浮気性の世論を相手に、8年近くもそれなりに高い支持率を維持すること自体が驚くべきことである。

 にもかかわらず、それが成し遂げたものとは何かと問えば、明瞭な答えはでてこない。すべてが、何か中途半端であり、その成果はというと確定しづらく、評価も難しいのである。いったいどうしたことであろうか。

レガシーがないことこそ、今日的

 私には、その理由は、この10…

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