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 今年もインフルエンザワクチンの季節がやってきました。例年と異なるのは、新型コロナウイルス感染症の流行です。インフルエンザと新型コロナの症状は似通っており、診察だけで区別するのは困難です。新型コロナの可能性を否定できない発熱の患者さんが増えると医療機関の負担になりますし、場合によっては両方の検査を行わなければなりません。新型コロナのワクチンはまだ開発途上で今冬には間に合いそうもありませんが、インフルエンザだけでもワクチンを接種しておきたいところです。

 インフルエンザワクチンは100%予防できるものではなく、有効率はおおむね40~60%ぐらいです。ワクチンを接種してもインフルエンザにかかる人がいるのもそのためです。せっかくワクチンを打ってもインフルエンザになってしまったら、次の年からワクチンをやめようと考える人もいるかもしれません。けれども、薬やワクチンの効果を個人の体験だけで正確に評価することは困難であることは覚えておいてください。

 ワクチンの中でもインフルエンザワクチンの有効率は低いほうですが、インフルエンザはいったん流行すると多くの人が感染するので、有効率が50%程度であってもワクチンの意義は高いのです。また、自分がかからないだけでなく他人への感染を減らすことにも役立ちます。私が勤務する病院では毎年、患者さんと接する機会のある職員はインフルエンザワクチンを接種しています。自分を守るためだけではなく、患者さんを守るためでもあります。

 新型コロナに対するワクチンは開発途中です。生ポリオワクチン並みに有効率の高いワクチンができればいいのですが、おそらくそんなにうまくはいかないでしょう。米食品医薬品局(FDA)は、ワクチンが承認されるには有効率が少なくとも50%以上であるべきだとしています。逆に言えば、有効率が50%あれば承認されうるのです。インフルエンザワクチンと同程度の効果があればOK、というわけでしょう。

 ただ、有効率が50%だと全国民がもれなくワクチンを接種したとしても、それだけでは流行は止まりません。それに、たとえ有効性が高いワクチンが開発されたとしてもいきなり全員にワクチン接種はできませんので、感染対策をしなくてよくなるわけではありません。約60年前の、ワクチンの緊急輸入によってポリオの大流行を抑制したような劇的な効果は望めません。

 しかし、悲観することもありません。インフルエンザだって、ワクチンを接種した上で基本的な感染対策をしてきましたし、ワクチンのない呼吸器感染症もたくさんあります。病気がたった一つの対策で解決することはめったになく、複数の対策を組み合わせることが肝要です。マスク、換気、手洗いといった対策に加え、新しくワクチンという新型コロナに対抗する武器が増えると考えましょう。完全に感染対策をやめることは無理でも、これまでのような厳しい自粛が必要なくなるかもしれません。

酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。