[PR]

世界で新型コロナの感染が広がるなか、川上未映子さんが短編小説「Golden Slumbers」を書きました。「あの二〇二〇年の春」を境に、「わたしたち」はどう変わったのか――。後半に川上さんのインタビューもあります。

小説「Golden Slumbers」

 その日はあらゆる不幸の肩身が狭くなるような晴天で、わたしたちはみんなで結婚式に参加していた。みんなというのは、みんなだ。「こんにちは、そっちはどう? こっちはみんな仲良くやってます」と言うようなときの、みんな。

 会場は花で埋め尽くされ、テーブルには品のいい料理が並べられている。庭や建物のあちこちに盛られた薔薇(ばら)は、まるで真夏の入道雲のように堂々とした咲きっぷり。そう思うと急に汗がにじむ。五月にしては暑すぎる午後。新郎は、この国の人なら一度はその名前を聞いたことのある有名な画家で、新婦は駆けだしの歌人だった。そういえば招待されたわたしたちもみんな、芸術家だった。

 新郎は75歳で、新婦は21歳。わたしがもう少し若い頃だったら、非対称性がどうのとか、女性の主体性の搾取がどうとか、気持ちが悪いとか、みんな色んなことを言うか思うかしたかもしれない。けれど最近はもう誰も何も言わなくなった。こういうことだけじゃない。ほかの、前ならもっと熱くなれたようなこと、自分だけはぜったいに見逃さないからなと思いつめていたような瞬間はすべて、去ってしまった。あの二〇二〇年の春を境にして、まあみんな生きてるだけでよかったよね、みたいなことになって、もう誰も難しいことは考えなくなってしまったのだ。

 わたしたちって本来はそうだっ…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。

2種類有料会員記事会員記事の会員記事が月300本まで読めるお得なシンプルコースはこちら