[PR]

 106年ぶりの快挙なるか――。横綱不在の大相撲秋場所を、新入幕力士が盛り上げている。28歳で幕内昇進を果たした東前頭14枚目の翔猿(とびざる)=東京都出身、追手風部屋=は13日目を終えて11勝2敗。関脇正代と並んで優勝争いのトップを走る。新入幕で優勝を果たしたのは、長い相撲の歴史でも過去に1人だけ。およそ1世紀前の出来事だ。

 初土俵から5年半でたどり着いた幕内の土俵。しこ名のように縦横無尽に暴れ回っているのが翔猿だ。身長175センチ、体重131キロは、大型化が進む幕内で小兵の部類。埼玉栄高から日大を経て追手風部屋に入門し、十両ではけがに泣かされ、3年以上も足踏みする苦労も経験した。それだけに「初めての相手と対戦できるのは楽しい。チャレンジャーの気持ちでいける」と幕内での充実感を語る。

 残り2日。新入幕優勝も現実味を帯びてきたが、達成すれば、106年ぶりの快挙になる。1914(大正3)年夏場所の両国が最初で最後で、それ以来、新入幕で頂点に立った力士はいない。

 出羽海部屋に所属していた両国は優勝当時22歳。身長5尺9寸(約179センチ)、体重25貫(約93キロ)という記録が残っている。初土俵から11場所目、翔猿と同じ前頭14枚目で臨んだ新入幕の場所を9勝1休で優勝。土つかずで優勝旗をつかんだ。

 千秋楽の翌日、1914年6月9日の朝日新聞朝刊は、《天下無敵の名をほしいままにした太刀山(たちやま)が孔雀(くじゃく)のやうな誇りの夢を一朝にして破つたのは彼(か)れ両国である》と快挙を報じた。

 当時無敵を誇った横綱太刀山を押しのけての優勝に、「幕内全勝の盛名を天下に馳(は)するに至つた」と賛辞。「取り口に千変万化の機智(きち)を見せる」と両国の相撲を表現し、「顔つきは初々しい、そして厭味(いやみ)の無い兄さんである」と紹介している。(波戸健一)