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香取慎吾とゆくパラロード

 朝日新聞パラリンピック・スペシャルナビゲーターの香取慎吾さんが、さまざまなパラ競技に挑戦する「慎吾とゆくパラロード」。新型コロナウイルスの影響で選手とのオンライン対談を中心に続けてきましたが、約半年ぶりに競技体験を再開。今回は「パラアーチェリー」です。来年の東京パラリンピック代表に内定している男子リカーブの上山友裕選手(33)=三菱電機=と一緒に、直径8センチの10点満点の的を狙ってみました。

紙面でも
香取慎吾さんとパラアーチェリーの上山友裕選手との対談は9月30日付朝刊スポーツ面の「慎吾とゆくパラロード」でも、1ページを使って紹介します。

 長さ約70センチの矢が時速200キロで飛んでいく。上山選手のあいさつ代わりの一射は、直径8センチの円の真ん中を射抜いた。香取さんはそのスピード感と威力に驚いた様子だった。

 《はぁ、これは気持ちがいいわ。》

狙うは70メートル先の8㌢の円

 30メートルでも的は小さく見えるのに、上山さんが主戦場のリカーブは、倍以上の70メートルの距離で得点を争う。香取さんは、まず5メートルの距離から始めた。

 今回使用した弓は一般的な弓のリカーブ。種目は使用する弓によって分けられている。リカーブという弓を使うリカーブオープンと、両端に滑車がついていてリカーブの約半分の力で引くことができる弓を使う、パラ独自のコンパウンドオープンなどがある。

 香取さんはケガをしないための防具を胸などにつけて、弓を引いた。だが得点帯の円の中に矢を射るのは、そう簡単ではない。

 《弓にあるサイト(照準器)で狙いを円の中心に定めて打つんですよね。でも、弓を引くとすごくぶれる。》

 上山選手がアドバイスした。

 《僕は左腕で押す力と右手で引く力がプラスマイナスゼロになるようにしています。弓を引きながら狙いを定めるのがいいかもしれません。》

 今度は的までの距離を5メートルから10メートルに。3射のうち得点できたのは1射だったが、上山選手は的に刺さった香取さんの矢を見て、あることに気づいた。

 《香取さん、見てください! 矢は中心から離れているものもありますが、縦のラインはそろっていますよね。狙いは悪くない。上下のぶれを意識すれば矢は中心に寄ってきます。》

 こつをつかんできた香取さん。最後は上山選手と対決だ。上山選手は30メートル、香取さんは10メートルとハンデをつけて「3射勝負」に挑んだ。

 香取さんは目いっぱい弓を引いた。結果は0、3、6の計9得点で、計29得点の上山選手に完敗。ただ、悔しげな表情の中にも、どこか楽しげだ。

自問自答、絵を描くときにも

 《自分と戦っているな、という気がした。打った後に、なぜ外れたのかを自問し、どこが悪かったかを考える。あっ、この感覚、絵を描いている時に似ている。「その色でいいの」って自問自答しながらやる感じが。だから楽しいんだ。》

 上山選手がうなずいた。

 《この競技では、自分の得点が実力です。試合では相手と勝負をしますが、得点を上げることはいわば自分との戦い。やればやるほど実力が上がって、はまってしまったんです。》

 上山選手は大学時代、健常者の中でアーチェリーをしていた。卒業後に両足のまひが進行し、立って歩けなくなったことで、パラアーチェリーの世界へ。香取さんは思った。

 《続けようと思えたのはなぜ?》

 上山選手は答えた。

 《アーチェリーって健常もパラも違いがないんです。パラリンピックと五輪、両大会に出ている海外選手もいるぐらいバリアフリーなスポーツです。車いすでも競技をやれることは健常者の時から知ってましたから。》

 上山選手は現在世界ランク2位。代表内定を決めている東京パラリンピックの金メダル候補だ。強さの源は精神面の成長にあると言う。

 《きっかけは優勝した2019年のドバイでの国際大会。そこで自信を得た。勝負では、心で相手を見下すことができた方が優位に立てることが多い。揺るぎないものがメンタルの強さとなり、今は相手が誰でも負ける気はしません。》

 香取さんはつぶやくように言った。

 《分かる気がする。経験が、ね。》

 そして続けた。

 《僕は紅白歌合戦で最後に歌う大トリを何度も経験した。最初は自分たちに務まるのかと不安に思っていた。でも出演を重ねるうちに自分の意識だけでなく、周囲の見る目も変わってきたの。そうしたものが積み重なって今の自分が形成されている気がする。》

 大舞台での経験を糧に芸能界で活躍する香取さんと通じ合えた上山選手。16年リオ大会の7位から飛躍を狙う東京への思いを口にした。

 《勝てば人生が変わる、そう思ったら緊張もする。でも応援してくれる人たちへの恩返しが最もいい形でできるのは、東京大会で結果を出すこと。とにかく、金。試合が面白かった、応援してよかった、と思ってもらいたい。そしてパラをさらに盛り上げたい。》

 香取さんはエールを送った。

 《応援したいです。大会はコロナ禍で1年延期となったけど、もし今年本番を迎えていたら、僕が今思う100%の状態で応援はできなかった気がする。来年までもっと多くの人に魅力を知ってもらって、大会本番、その先のゴールに向かって歩んでいきたい。》(榊原一生)

 上山友裕(うえやま・ともひろ) 1987年8月、大阪府生まれ。小、中学生時代はラグビーに打ち込む。同志社大に入学後、アーチェリーを始める。卒業後、徐々に足の感覚がなくなり、パラアーチェリーの世界へ。2016年リオ・パラリンピック7位、19年世界選手権6位。三菱電機所属。