「経済再生、介護、改善を」新しい菅内閣に願う読者の声

細見るい 内藤尚志 聞き手・佐藤英彬
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 菅義偉首相の新内閣が誕生して1週間余り。様々な政策が検討されるなか、暮らしはどうなっていくのでしょうか。三つの分野で考えます。まずは働き方。コロナ禍による解雇や雇い止めはわかっているだけで6万人を超えました。在宅勤務が広がり、仕事と私生活の切り替えに悩む人もいます。給料が減り生活が苦しい家庭もめだちます。ワーク・ライフ・バランスの実現など課題は山積みです。

リモートワーク当然の社会に

 デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

就職氷河期世代のサポートを

 就職氷河期世代のサポートをしてほしい。リーマン・ショックの時も「派遣切り」がひどかったが、非正規労働者はあのときよりも増えているのでは。(東京都・40代男性)

●怖い雇用の不安定さ

 雇用の不安定さが怖い。年齢的にも転職は難しい。働ける環境というものがいかに大事かコロナで身にしみた。(千葉県・40代女性)

●リモートワークを当たり前に

 今はコロナの影響で在宅勤務をしているが、以前は毎日の通勤が大変だった。これを機にリモートワークやフレックスタイム制度といった働き方が当たり前になってほしい。まずは多様な働き方を実践することが、日本の産業に創造性をもたらし、価値を高める近道になるのだと思う。(神奈川県・30代女性)

●正規と非正規の格差開き過ぎ

 倫理的に良いとは思わないが、派遣や非正規の労働者は、調整弁にならざるを得ない。企業として当たり前の行動。だからこそ、失業時の公的保護やセーフティーネットは不可欠。それなくして雇用主にだけ文句を言うのはお門違い。逆に正規は守られ過ぎ。あまりに固定費化し過ぎているのでやむ無く非正規に頼る。労働者を保護する法律が硬直的過ぎる。正規と非正規の格差が開き過ぎているのが問題。また、育児や介護に携わる人の待遇が悪すぎる。今や最も必要とされる仕事なのに。公務員にするなど、安定した職場でないと、充実した公共サービスとはなり得ない。民間に頼り過ぎは無策に等しい。(東京都・50代女性)

●もっと転職しやすい世の中に

 転職するにも時間が取れない。しかし、先に退職してしまうと、日本の場合は次の就業の機会が著しく低下する。もっと転職に関してフレキシブルな世の中になることを期待している。(兵庫県・30代男性)

●医療関係者の待遇改善を

 勤務医です。もともとの長時間労働に加えて、コロナ対策で疲弊しています。診療報酬を思い切って増やし、医療関係者の待遇をもっと改善してほしい。(岐阜県・30代男性)

●育児や介護で働き方変えたい

 転職・就職支援として、画一的な働き方だけでなく、育児や介護、あるいは自身の健康状態や年齢に合わせてダブルワークなど働き方を変えていける社会をめざしてほしい。(埼玉県・40代女性)

●女性が生きやすい社会に

 長時間労働やワーク・ライフ・バランスの悩みなど、多くの方が経験していながらも声を出せないことが多いと思います。特に女性にしわ寄せが行きやすい分野でもあります。女性が生きやすい社会は、誰もが生きやすい社会ではないでしょうか。(兵庫県・30代女性)

「弱者切り捨て政策」やめて

●いくつになっても働きたい

 40歳で結婚して働き続けたかったが退職。すると全然仕事がない。大阪ならまだしも愛知県は全然なくて困ってる。あっても近所のスーパーのパート。新卒で長年頑張って働いてきたのに、結婚せず独身で働き続けた方が良かったのかと思うような有り様。離職前もたいして高くない賃金だったのに地域格差でつらい思いをしている。地方再生を切に願う。働きたい人はいくつになってもそれなりに働ける社会にしてほしい。まずは経済再生、そして介護、最後に子供という優先順位で改善に取り組んでほしい。(愛知県・40代女性)

●解雇しやすい仕組みに

 雇用の流動化を促すために事業主による解雇の規制緩和をしてほしい。組織の人員が固定化されることによる弊害は生産性向上の大きな妨げになっていると感じています。多様性のある人々が組織に入ったり、出たりすることで、各個人の視野が広がり、それがイノベーションや業務改革につながっていくと思います。個人的には、まだ雇用者のいない自営業で、今後に雇用を発生させたいという希望はありますが、そのための仕組みを知るにつけ、リスクの方が大きいと常に感じています。人が働くということを重視するのであれば、解雇の規制緩和をはじめとした雇用主の責任を少なくするような施策が実施されることを望みます。(群馬県・40代男性)

●弱者切り捨てやめて

 元凶である大企業優遇政策のアベノミクスを止めてもらいたい。結局、庶民や地方には賃金の恩恵はなく、弱者切り捨て政策だった。雇用は大企業に都合のいい制度になった。失業率は改善されたかもしれないが、中身は正規雇用が減り、非正規雇用が大きく増えた。賃金は減り、雇用の保証も手薄いものになった。そこにコロナ禍。雇用は次々に打ち切られ、蓄えもないまま、路頭に迷うことに。コロナ禍がアベノミクスの結末をあらわにしてくれた。安倍政権の大ウソつきがコロナ禍で暴かれたと言っても間違いではない。そして介護・子育てにまで深刻な被害をもたらしたのは言うまでもない。(神奈川県・50代男性)

●休めないと未来に希望持てない

 有給休暇を100%消化することを全事業所に義務付けて下さい。育児、介護、自分の病気でも休めないなんておかしいです。長時間労働を法律で禁止して、人が足りないなら雇って下さい。夫婦で育児できない、親の死に目にも会えない、自分の病気は隠す? 未来に希望なんかありません。また非正規労働者の多い昨今、最低賃金を全国1500円に引き上げて下さい。下層庶民は懸命に休まず働いているのに給料はいっこうに上がりません。お金持ちの所得税や宝石などの高級品に対する税金、大企業の法人税などはもっと上げてもいいのではないでしょうか。そして安く入れる介護施設をもっと増やして下さい。みんな老後が不安でお金はため込んでいます。(広島県・40代女性)

コロナ禍 労働者を直撃

 いま働く人はどんな立場にいるのでしょうか。

 「ベテランのパート2人が契約更新されず、業務が滞りがちになりました」

 食品関連で働く50代の女性はこう嘆きます。経営が苦しい企業による人減らしの動きが広がっています。派遣やパート、アルバイトなどの非正社員は「調整弁」として解雇や雇い止めされがちです。

 大手旅行会社に派遣されていた30代女性は、今春から直接雇用される予定でしたが、直前になって撤回され、契約終了を言い渡されました。

 7月の就業者数を雇用形態別にみると、正社員が前年同月比で微増している一方で、非正社員は6%減っています。

 正社員も安心していられません。東京商工リサーチによると、今年、早期・希望退職を募集する上場企業は60社超に上り、8年ぶりの高水準になる見込みです。業種別では小売りやアパレル、飲食業など、コロナ禍が直撃している業種が多い。同社の担当者は「募集の決断までに時間がかかる製造業など、これからほかの業種にも広がりそうです」とみています。

 負担が増しているのが、配送員や清掃員、保育士や医療従事者といった「エッセンシャルワーカー」です。名古屋市内のスーパーの40代店員は、来店客は一時急増したのに、「時給アップや臨時の一時金はありませんでした」と話します。

 東京都の中学校の特別支援教室の専門員である70代女性は「電車通勤で感染は怖いですが、働くことは自分が生きていることの証し」と仕事を続けています。(細見るい)

安倍政権で雇用統計は改善したが… 上がらない実質賃金 足りぬ補償・遅い給付

 憲政史上最長の7年8カ月余り続いた第2次安倍政権は「雇用」を重要な課題としてきました。働き方改革を掲げ、残業時間の規制を強めて年次有給休暇の取得を義務づけました。安倍晋三前首相は辞任を表明した8月の会見でも「400万人を超える雇用をつくり出すことができた」と成果をアピールしました。

 菅義偉首相も高く評価し、雇用についての政策も引き継ぐ見通しです。

 たしかに雇用の統計は改善しました。コロナ禍前までは求職者1人あたりの求人数を示す有効求人倍率が全都道府県で1を超え、完全失業率も4%台から2%台前半に下がっていました。景気回復で求人が増え、一部の仕事は人手不足が深刻になりました。

 問題は雇用の「質」がともなっていなかったことです。増えた働き手の6割超はパートや派遣といった非正社員で、いまは仕事を失う人が急増しています。実質賃金も増えていません。国は最低賃金を毎年3%上げる方針を掲げていますが、経営側に配慮して今年は断念しました。

 コロナ禍は働き方の問題もあらわにしました。緊急事態宣言のもとで広がったテレワークは、非正社員には認められない職場もあり、「やむなく出社」している人もめだちます。在宅勤務の人も、仕事と私生活との区分けがあいまいになって働き過ぎが心配されています。

 フリーランス(個人事業主)の働き手も大変です。イベントの自粛などで仕事が減っても補償がないことが多く、生活の見通しが立たなくなる人が続出しました。国は「多様な働き方が可能な社会」をめざしていますが、セーフティーネットは不十分です。

 国はコロナ禍で働き手に直接お金を配る政策にも踏み出しました。給付金や支援金の制度がいくつかできましたが、申請や審査といった手続きに時間がかかり、入金が遅れるケースも相次いでいます。

 菅首相は行政の縦割りやデジタル化の遅れを問題視して「規制改革を全力で進める」と宣言しました。多様な働き手を支えるために「有言実行」できるか、さっそく問われます。内藤尚志

市場原理による「ひずみ」見て 連合の総合運動推進局長・山根木晴久さん

 連合の労働相談は電話やメールなどで例年1万5千件ほどあります。コロナ禍の今年は、7月までに1万2千件弱も寄せられています。内訳をみると2月まで職場内の「パワハラ・嫌がらせ」が13カ月連続トップ。3月からは「解雇・退職強要・契約打ち切り」、4~5月は「休業補償」が上位を占めています。

 6月以降から再び「パワハラ・嫌がらせ」がトップになりましたが、内容をみると退職強要につながっているケースもあります。例えば、パートの方が法事で帰省したら、上司から移動自粛中の移動だとして「きっとコロナに感染しているに違いない」「他の社員にうつしたらどう責任をとるんだ。もうクビだ」などと迫られたケースもありました。コロナ収束が見通せず、仕事や私生活の制限によるストレスのはけ口を会社の部下や同僚に求める「コロナハラスメント」と呼ばれる現象も起きています。

 相談の6割強が非正社員です。「正社員は守るけど非正規は守らない」といった企業側の姿勢が見え隠れしています。休業補償の内容や、テレワークの対応に差があるといった相談もあります。今後は新型コロナによる「格差拡大」を懸念しています。雇用の安定や賃金、働き方などいろいろな点で、正規と非正規の格差がより深刻になる恐れがあります。

 菅首相はコロナ対策に加え経済も重視する方針を掲げています。今は多くの企業が休業手当の費用をまかなう雇用調整助成金を利用し、従業員の雇用をつないでいますが、それも時限的措置で限界があります。今後雇用環境はますます厳しくなることが予想されます。経済対策はもちろん大事ですが、市場原理によって生じる「ひずみ」にしっかり向き合ってもらいたい。

 労働者の声や職場の実態を把握し、必要なセーフティーネットを張り巡らす。これが政治の役割だと思います。(聞き手・佐藤英彬)

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 スーパーでいつでも食品が買える。ネットで買った商品がすぐに届く。ゴミを定期的に集めてもらえる。これが「当たり前」だと思っていられるのは、現場を支えてくれる人たちのおかげだと感じています。

 そうしたエッセンシャルワーカーには非正社員がめだちます。非正社員は卸売り・小売業で約5割、医療・福祉で約4割、運輸業で約3割を占めます。非正社員は賃金が比較的少なく、立場も不安定です。

 コロナ禍を受けて医療従事者らに感謝の気持ちを示すキャンペーンもありました。ただ、医療関係者からは「コロナ収束時に心身疲れ果てた看護師らの離職が相次ぐかもしれない」と懸念の声が上がっています。もちろん感謝はすべきですが、現場の人たちのやりがいや善意に頼ってばかりはいられません。最低賃金の引き上げなど、国は待遇改善に取り組む責任があるはずです。(細見るい)

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