スポーツ推薦で輝くラガーマン 「学問深められる」喜び

木村健一 野村周平
[PR]

 スポーツ推薦を活用して道を切り開いた学生も、もちろん少なくない。

 「ラグビー、やめた方がいいのかな」

 京産大ラグビー部4年で主将を務める田中利輝さん(21)は、大阪・東海大仰星高の1年生だった秋、父を心筋梗塞(こうそく)で亡くした。競技を続けることで家計に負担をかけてはいけないと、恐る恐る、そう母に尋ねたことを今も覚えている。幸い、その時は親戚が「ラグビーを続けろ」と支援してくれた。

 大学進学を考えた時は、学費の負担が少ない学校を探した。しかし、話を進めていた大学との折り合いがつかなかった。ラグビーをあきらめて就職するか、悩んでいた時、高校の監督がつなげてくれたのが、学費減免のスポーツ推薦制度を設けている京産大だった。

 「話をいただけたのは高3の年末。ギリギリのタイミングだった。感謝しかなかった」

 恩返しの気持ちを込め、「全力でプレーする」と歩んできた。同時に、大学で学問を深められるありがたみもかみしめている。経営学部で組織論を学び、競技との両立を志してきた。

 「父のような経営者に」との思いで。

 迎えた最終学年。「才能はなくても、泥臭く地道に積み上げることができる。そういうスタイルをチームに根付かせて」と指導陣から主将に推された。コロナ禍で開催が危ぶまれた関西大学リーグは11月から始まる予定だ。「残された試合、京産大の名前を背負って戦いたい」

自分で決めた進学先で打ち込む

 国士舘大柔道部1年の高橋翼さん(18)は、岡山・作陽高時代、全国大会の個人戦で優勝した。同高の川野一道監督から、自身の母校である国士舘大も含めて様々な大学を、スポーツ推薦などの進学条件とともに示された。

 その時にかけられた言葉は「自分で決めなさい」。

 学費や寮費の免除に加え、月10万円の小遣いをもらえる大学からの誘いもあったが、最終的には「雰囲気が良く、強い選手と戦える環境がある」と監督の母校に進むことを決めた。

 「進学に『政治』は持ち込まない」。川野監督はそんな信念で、教え子たちの進路選択と向き合っているという。「大人の都合で子どもたちをどうにかしてはいけない。子どもが行きたいところにいかないと、強くならない」

 スポーツ推薦制度を巡っては、進学実績や運動部活動の成果を積み上げたい指導者、学校側の思惑などが影響し、子ども自身の希望が尊重されないまま進路が決まったり、学問との両立がないがしろになったりするケースが少なくない。

 制度の研究を続ける小野雄大・早大講師(スポーツ教育学)は「大学と高校の指導者のしがらみがあり、指導者の意見が優先される場合がある」と指摘し、提言する。

 「(学校や指導者が)選手が将来のキャリアを考えることのできる環境を作り、選手自身も進路選択の段階で大学を知る努力が必要。大学は学問をやる場と考えなければいけない」

     ◇

 強豪大のスポーツ推薦の概況を知るため、朝日新聞社は8月下旬から野球、サッカー、駅伝、ラグビー、バスケットボールバレーボールの6競技の全国大会(2019年度)で16強以上の成績を残した87校を対象にアンケートを実施し、76校から回答があった(9月24日現在)。

 その90%にあたる69校が制度を導入。理由は「心身両面で優れた能力を持つ人材の育成」「大学の知名度の向上」「愛校心の醸成」「入学生の確保」などが挙がった。

 スポーツ推薦入試の合格率は90%以上の大学が多く、25校が100%。合格率の高さに対し、4年制大学を4年間で卒業した学生の割合は、60%台が1校、70%台が4校あり、学業との両立の難しさがうかがえた。合格率や卒業率を非公表とする大学もあった。

 推薦入学者への経済支援は、48校が入学金や学費の全額免除や減額などを実施。さらに寮費や栄養費を負担すると回答した大学も5校あった。

 過去の統計を調べると、全国大学体育連合は14年に全国の大学761校を対象に調査を実施。回答があった403校のうち、スポーツ推薦入試を実施している大学は3割だった。旺文社は昨年6~7月、776校を対象にアンケート。回答があった452校の4割に近い166校がスポーツ推薦を実施し、そのうち7割が対象競技を決めており、野球(79校)、サッカー(73校)、バレー(65校)、陸上(62校)、バスケ(61校)が上位だった。木村健一、野村周平)

大学のスポーツ推薦制度導入の主な理由

・スポーツと学業を両立できる強い意志を持つ学生の獲得

・競技を通じて大学名を広く世間に周知

・学生の帰属意識、母校愛、一体感の醸成

・運動部を強化し、心身ともに優れた人材を社会に送り出す

・学生や入試制度の多様化

・スポーツ推薦制度や指導者招聘(しょうへい)がなければクラブ活動の継続が難しい

・制度活用による入学者数の確保

(朝日新聞社実施のアンケートから)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【10/25まで】すべての有料記事が読み放題!秋トクキャンペーン実施中!詳しくはこちら