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 全国発明表彰(公益社団法人発明協会主催、朝日新聞社など後援)の今年度の受賞者が決まった。最優秀の恩賜(おんし)発明賞には、スマートフォンやコンピューターで大容量のデータ保存を可能にした3次元フラッシュメモリーが選ばれた。

■恩賜発明賞 半導体メモリーを「高層ビル化」

 スマートフォンやデジタルカメラ、コンピューターといったデジタル機器で、写真やデータを保存するのに欠かせない半導体「フラッシュメモリー」。限界が近づいていた大容量化を、半導体を縦に重ねる3次元化によって突破した。製造工程も簡略化し、世界2位のシェアをもつ。

 東芝が1987年に世界で初めて開発したNAND(ナンド)型フラッシュメモリーは、小さな素子に電子を出し入れして情報を記録する。容量を増やすには、半導体にどれだけ多くの素子を詰め込めるかだが、小さくするにも限界が近づいていた。

 半導体を縦に重ねて3次元化すればいいことは分かっていたが、東芝の開発チームの勝又竜太さんは「平屋建てを高層ビルに進化させるイメージ。開発は難しかった」と振り返る。単純に重ねていくだけでは工程が多くなり、コストがかさんで高価になりすぎてしまうからだ。

 突破口は、リーダーの青地英明さんの通勤中の「思いつき」だった。半導体を1枚ずつ重ねるのではなく、半導体の元になる電極をまず何層も重ねてから縦穴を開け、素子を一気につくる一括加工だった。

 だが、本当にできるのか。細い縦穴をまっすぐに開けられるか、髪の毛の太さより薄い層を重ねる際にずれないか。試行錯誤を重ね、2年かけて作った試作品を2007年、国際シンポジウムで発表した。ライバルも成功していない3次元化は注目を集めた。数百人の前で説明した田中啓安さんは「会場は半信半疑の雰囲気だった」。発案した青地さんも「社内でも実用化へ疑問の声は多く、サンドバッグになりながらの研究だった」という。

 それでも、発表をきっかけに世界の開発競争は本格化。2年後には韓国サムスン電子が似た試作品を発表し、巻き返してきた。青地さんらも500~1千ある工程を見直すなど量産化をめざした。そして構想から11年後の16年、製品の出荷を始めた。

 この時に48層だった3次元メモリーは、最新型では96層になった。消費電力や発熱量の少なさから、人工知能(AI)の広がりもあって急速に需要が拡大している。現在7兆円程度の市場規模は、25年には3倍に増えるとの予測もある。鬼頭傑さんは「多層化にはまだまだ課題があるが、さらなる大容量化を進めていきたい」と意気込んでいる。(石倉徹也

 超高密度3次元フラッシュメモリ構造とその製造方法の発明 鬼頭傑、青地英明、勝又竜太、木藤大、田中啓安(いずれも元東芝=現キオクシア)、仁田山晃寛(元東芝)

拡大する写真・図版仁田山晃寛さん、青地英明さん、木藤大さん(左から)=キオクシア提供

拡大する写真・図版勝又竜太さん、鬼頭傑さん、田中啓安さん(左から)=キオクシア提供

拡大する写真・図版発明した3次元フラッシュメモリー=キオクシア提供

■内閣総理大臣賞 「生きた」瞳、新アイボ

 頭やあごをなでると目を細めて「きゃんきゃん」と喜ぶ。帰宅すると尻尾を振って寄ってくる。衝撃のデビューを飾ったロボット犬「アイボ」シリーズの最新作は、それまでの機械的なデザインから一新。子犬さながらのしぐさやくりくりの目で、多くの人の心をつかんだ。

 新aibo(アイボ)の開発が極秘プロジェクトとして始まったのは2016年夏。1999年に登場して世代を重ねたアイボが、製造を終了して10年がたっていた。

 デザインを突然任された高木紀明さんが目指したのは生命感だ。歴代アイボは目をイルミネーションや光の点で表すなど、機械的でいかにもロボット犬という姿をしているものが多かった。でも、新アイボは愛着が湧くパートナーにしたい。まずは犬を見ないようにしてイメージを膨らませ、次に街中や公園で多くの犬を観察した。

 こだわったのが目だ。有機ELで瞳孔の動きや目の輝き、虹彩(こうさい)も映し、うるんだ瞳を実現した。「リアルな目はプラスチックの体に合わない」という反対もあったが、人の心を動かすにはどうしても人と目を合わせられるようにしたかった。新アイボを飼っている高木さん自身が「目が合うとドキッとするし、突然にらまれるとなんで?と思う」目に仕上がった。

 首をかしげたり、尻尾を振ったり。歩くときには腰を左右に動かすなど、動きも生き生きと進化した。鼻先のセンサーが100人以上の顔を認識し、世話をしてくれる人に懐き、飼い主とのやりとりも学習して個性を持って成長する。

 高木さんがうれしかったことがある。あるとき、本物の犬がアイボのおしりのにおいを嗅ぐ「あいさつ」をした。「犬はうそをつかない。デザインや動きを認めてもらえた気がした」(藤波優)

 AIコミュニケーションロボットの意匠 高木紀明(ソニー)

拡大する写真・図版新アイボを抱く高木さん=ソニー提供

■文部科学大臣賞 尿から膀胱がんなど発見

 尿から膀胱(ぼうこう)がんや腎臓病などの兆候を見つける技術を開発した。これまでの顕微鏡を使った方法では、見る人に技術や経験が求められたが、数分で結果が出て高精度、手間も少ないとあって、国内や欧州などで広く使われている。

 腎臓や尿管、膀胱に病気があると、尿の中に特徴的な細胞が混じる。例えば膀胱がんでは細胞の形が不自然に崩れた細胞が混じるようになる。これらを見分けられれば病気を早い段階で見つけられるが、赤血球が邪魔をするなどして自動化するのは難しかった。

 専門分野の異なる4人で2011年ごろに結成した開発チームは、まったく新しい手法を目指した。既存の技術にとらわれないよう、パソコンやメールも見ないようにし、小篠正継さんは「初めの1週間ほどはフロアの隅っこで、紙と鉛筆だけを使って頭の中にあるアイデアをすべて出した」と話す。

 着目したのが、DNAなどの核酸の量が細胞の種類ごとに異なる点だった。試薬を使って分類の妨げになる赤血球を取り除き、細胞の核だけを染色することで分類できるめどが立った。顕微鏡で1検体あたり30分ほどかかっていたのが1分半ほどで済むようになり、精度も高くできたという。川野雅典さんは「膀胱がんの早期発見に役立ててほしい」と話した。(小川裕介)

 疾患の早期発見に有用な尿検体分析装置の発明 川野雅典、河合昭典、小篠正継(いずれもシスメックス)、長岡加奈子(元同社)

拡大する写真・図版小篠さん、河合さん、川野さん(左から)=シスメックス提供

拡大する写真・図版全自動で尿の成分を分析できる装置=シスメックス提供

■朝日新聞社賞 植物由来のプラスチック

 植物から、見た目も性質も石油由来と遜色ないプラスチックをつくった。

 きっかけは2000年ごろ。地球温暖化や資源の枯渇への懸念から、化石資源に頼らないプラスチックをつくろうというプロジェクトが社内に立ち上がった。

 植物由来の原料を使ったプラスチックは以前にもあったが、硬いものだった。青島敬之さんら6人は軟らかくしなやかなものを目指した。しかし、最初のうちはボロボロで色も焦げ茶のものしかできなかった。3年かけ、ようやく石油由来と同品質になったが、どうしてもまだ割高だった。

 あきらめかけたころ、思わぬ発見があった。開発した方法で、土の微生物で分解されるプラスチックをつくると、植物に含まれていた微量の窒素が微生物の「おいしいエサ」になり、分解が早く進んだ。付加価値が付き、植物由来がむしろ強みに変わった。

 「世の中をひっくり返す材料をつくりたかった」と青島さん。06年に特許を出願、09年に登録になった。世界的な環境意識の高まりで、農業用のフィルムやレジ袋などで市場は広まりつつある。(水戸部六美)

 バイオマス資源由来の汎用(はんよう)ポリエステル製造技術の発明 青島敬之、加藤聡、新谷昇、植田正、山岸兼治、磯谷篤志(いずれも三菱ケミカル)

拡大する写真・図版新谷昇さん、青島敬之さん、加藤聡さん、山岸兼治さん(左から)

拡大する写真・図版植田正さん=本人提供

拡大する写真・図版磯谷篤志さん=本人提供

拡大する写真・図版植物由来のプラスチックでできた製品

その他の特別賞(敬称略)

 【経済産業大臣賞】「異種原料の配合率が連続可変な意匠糸用紡績機械の発明」槌田大輔(豊田自動織機)【特許庁長官賞】「大容量光通信用ディジタルコヒーレント受信システムの発明」小泉伸和ら6人(富士通など)【発明協会会長賞】「漏洩磁束法による鋼板の微小凹凸欠陥計測装置の発明」腰原敬弘ら3人(JFEスチールなど)【経団連会長賞】「誘導加熱を利用したエアコンの冷媒液化防止技術の発明」畠山和徳ら4人(三菱電機など)【日本商工会議所会頭賞】「全自動散薬調剤装置の発明」吉名克憲ら4人(湯山製作所)【日本弁理士会会長賞】「軽量で断熱性・防水性の高い金属横葺屋根材の発明」菅野良彦ら5人(アイジー工業)

 表彰式は新型コロナウイルスの影響で中止になりました。