消える昭和 銭湯「高津湯」の建物が取り壊しへ 川崎

茂木克信
[PR]

 1960年代半ばから約半世紀、庶民の社交場として親しまれた川崎市高津区の銭湯「高津湯」=2015年に廃業=の建物が近く、取り壊される。よりよい暮らしを夢みて、経済成長の道をひたむきに進んだ昭和の時代の面影がまた一つ、街から消える。

 東急田園都市線の高津駅から歩いて数分。大通りから50メートルほど入った、マンションや新しい住宅が立ち並ぶ一角に、「高津湯」の四角い看板が付いた平屋の建物がある。

 廃業後はしばらくそのままだったが、昨年4月、シェアオフィス「おふろ荘」としてよみがえった。運営する不動産コンサルティング会社「NENGO(ネンゴ)」(同区)は27日、お別れイベントを開催。おふろ荘で開かれていたアトリエ教室に通っていた子どもたちや、施設を表現活動や仕事場として使っていたアーティストらが参加し、色とりどりの絵や文字で外壁や窓を埋めていった。「のみの市」も開かれ、高津湯で使われていた風呂おけや小物などが販売された。

 施設を昨年6月から利用してきたフラワーアーティストの白川崇(たかし)さん(50)は「元銭湯だけに天井が高く、疲れを癒やす場所だったこともあって居心地がよかった」と言う。「でも、緊張感をもって作業するには不向きだったかな」

 同社によると、高津湯は薪(まき)で沸かす湯が「やわらかくて体の芯まで温まる」と愛されたが、湯をつくる主人が亡くなるなどしたために廃業した。シェアオフィスは当初、今年4月までの1年間の予定だったが、オーナーの厚意で期間が半年間延びた。建物は来月から解体が始まり、跡地にはアパートが建つという。

 お別れイベントに来た小田原市の自営業岩田賢一さん(59)は、銭湯のペンキ絵やタイル絵を見るのが趣味だという。富士山などを描いた高津湯のタイル絵には「傷みが少ない」と感激した様子。取り壊しには「時代の流れなのでしょうが、銭湯の面影を残す建物が消えるのは寂しい限りです」と話した。

 区内の会社員尾形明範(あきのり)さん(45)は、廃業前の5年間に週2回ほど通った。最終日は名残惜しくて3回入ったという。「一緒に来た彼女とは、男女の浴場の仕切り越しに『シャンプー貸して』『もう上がるよ』なんて声をかけ合いました。人生の1ページが消える感じです」としんみり。「でも、記憶にとどめます。高津湯の思い出はなくなりません」ときっぱり言った。(茂木克信)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

【期間中何度でも15%OFF】朝日新聞モールクーポンプレゼント