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 日本の太平洋側の深海に幅広く生息しながらも、その生態は謎に包まれている無脊椎(せきつい)動物の「食事」が、この夏以降、相次いで目撃された。鳥羽水族館(三重県鳥羽市)が2年ほど前から飼育するユニークな見た目の生き物は早朝、同じ水槽内のイソギンチャクにかぶりついていた。

 7月30日午前8時ごろ、無脊椎動物を担当する学芸員の森滝丈也さん(50)は思わずのけぞった。

 脚をめいっぱい広げると15センチほどにもなるヤマトトックリウミグモが口を伸ばし、イソギンチャクにかぶりついている。その時間は約10分。森滝さんは急いでカメラのシャッターを切った。

 次は9月20日、7月とほぼ同じ時間帯に別のイソギンチャクに頭を突っ込んでいた。ヤマトトックリウミグモの口は三角形になっており、その先に細かい歯が無数についている。「ムシャムシャ」という音が聞こえてきそうだった。

 クモのような形をしているウミグモの仲間は世界に約1300種類いるとされる。生息域は浅い海から深い海までまちまち。大きさも見た目もバラバラだ。カイヤドリウミグモはアサリなどの体液をえさとするため、「海の吸血鬼」として漁業者らに忌み嫌われている。

 一方、トックリウミグモが何を食べているのかはほとんど知られておらず、寿命さえも分かっていない。この生き物を専門に研究する人は世界でもまれで、海外の論文には海綿やウミウシを食べたという記録があったが、イソギンチャクを食べたという記録は見当たらなかった。

 森滝さんが、ヤマトトックリウミグモがイソギンチャクを食べている場面に初めて遭遇したのは、2014年5月のことだ。

 この個体はすでに死んでいるが、6年後、別の個体による貴重な場面に2度も巡りあうことができた。森滝さんは「軟らかいものを好んで食べるのだろうとは思っていたが、まさかこれほど食べるとは」と驚きを隠さない。

 水族館などで飼育されているヤマトトックリウミグモは、たいてい1年以内に死んでしまう。ところが鳥羽水族館で飼育している個体は、2年近く生きながらえている。

 「今回の個体は、非常に状態がよいかもしれない」と森滝さん。ひょっとしたら、来館したときにあなたも、貴重な場面を見られるかもしれない。(安田琢典)