【動画】秋シーズンの運行が始まる「びわ湖疏水船」=紙谷あかり撮影
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 京都市と大津市を結ぶ琵琶湖疏水(そすい)を巡る「びわ湖疏水船」の秋の運航が、10月から始まる。疏水が完成130周年の今年に日本遺産に認定された一方、春の運航は新型コロナウイルスの影響で9日間だけだった。紅葉の季節を控え、関係者は観光客を待っている。

 疏水は1890年に造られた運河。今の全長は約35キロ。疏水船はこのうち、第1疏水の旧御所水道ポンプ室付近(京都市山科区)から大津閘門(こうもん)付近(大津市)までの7・8キロを結び、2年前に運航し始めた。両市など10団体でつくる琵琶湖疏水沿線魅力創造協議会が春と秋のシーズンに運営している。

 桜や紅葉の景観が人気で、昨年の乗客数は1万2915人、乗船率は9割台と好調。だが、コロナ禍で今春の運航はわずか9日間で休止に追いやられた。「やむを得ない苦渋の判断だった」と担当者は振り返る。

 秋の運航は10月1日~11月30日の予定。9月29日午後5時時点で予約は7割ほど埋まったという。「これから紅葉シーズンが本格化する。早めに予約してほしい」と担当者。

 ガイドの道祖彩有希(どうそさゆき)さん(31)は「日によって景色の見え方が違う。京都の街を良くしようとした先人たちの熱意や、大工事を手作業で成し遂げた偉大さも想像して乗ってほしい」と話している。

 乗船は予約制。料金は曜日によって異なり、片道5千~8千円。問い合わせはJTB京都支店(075・365・7768)へ。

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 9月下旬、京都側の乗船場に全長7・5メートルの小ぶりの船が待っていた。昨年就航した「れいわ」号。座席は外向きで、景色を堪能できる。メディア向け試乗会に参加した。

 乗船場は、京都御所に防火用水を送るれんが造りの旧御所水道ポンプ室そばにある。ゴゴゴーとエンジン音を響かせ、出航した。小さな波を立てて、岸を離れる。雨が激しかったが、ガイドの男性(34)は「心の中は晴れのつもりで」とアナウンス。心はわくわくする。第1疏水の旅が始まった。

 水深は平均1~1・5メートルほど。京都側は琵琶湖側より約4メートルだけ低いが、流れに逆らって進むと波が立ちやすい。船を安定させるためには速度が必要になる。行きの所要時間は帰りより20分短く、35分間だ。

 「水の流れや傾斜など、すべて計算して130年前につくられた。たいしたものです」とガイドさん。

 長さ約850メートルの第3トンネルに入った。入り口の上部には、公家の三条実美(さねとみ)が「美哉山河(うるわしきかなさんが)」と揮毫(きごう)した漢字の「扁額(へんがく)」が見えた。トンネル内はライトがなければ真っ暗で肌寒い。

 トンネルの出口側には、明治時代に首相を務めた松方正義が揮毫した扁額「過雨看松色(かうしょうしょくをみる)」があった。秋から冬に降る時雨が過ぎると、一段と鮮やかな松の緑を見ることができるという意味だそうだ。雨中の船旅には希望の言葉。扁額を探すのも楽しい。

 次の第2トンネルは長さ124メートル。約30秒で通り抜け、木々の間を進む。黄色に色づいている木もあった。しっとりとしてノスタルジックな風景が続き、癒やされる。春は桜や菜の花、初夏は新緑、秋は紅葉が楽しめるそうだ。沿道に咲くオレンジ色のコスモスも緑に映える。

 天智天皇陵や住宅街の脇を通過。山科付近では疏水沿いに遊歩道があり、住民が手を振ってくれた。朱塗りの橋、日本初の鉄筋コンクリート橋、橋台がれんがの橋、石造りの橋などを次々とくぐる。その都度、ガイドさんが紹介してくれた。

 かつて荷下ろし場や船頭の休憩場だった舟溜(だまり)は浅瀬になっており、魚を狙ってアオサギが飛んでいた。窓がないので風や鳥のさえずりも心地よい。

 最後は約2・4キロある第1トンネル。入ると光がぱっと消えた。当時の天井や壁はレンガ造りだが、現在は改修してコンクリート製で白い。

 この時期、琵琶湖から藻が多く流れてくるため、エンジンに絡まないよう、より慎重に操船するそうだ。

 途中、天井から水が滝のように落ちてきた。船の屋根を激しくたたく。長いトンネルの掘削を効率化するため、山上から竪坑(たてこう)を掘った穴からの湧き水だそうだ。

 トンネル内の壁のくぼみに、疏水建設を主唱した第3代京都府知事の北垣国道が揮毫した扁額が現れる。走行中、疏水工事を解説する映像が壁に映し出され、退屈しない。10分以上かけてようやく、鉄の扉がついた出口を抜けた。そして、天台寺門宗総本山の三井寺がある長等山(大津市)のふもとの船着き場に着いた。

 下りの船は「へいせい」号。同じガイドさんだった。下りの所要時間は55分のため、よりゆっくりと景色を楽しめる。疏水造りに情熱をかけた先人の思いや、当時の最新技術を感じた旅だった。(向井光真)

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 〈琵琶湖疏水〉 琵琶湖の水を京都に引きこむため、1890年に完成した運河。第2疏水(1912年完成)などを含め、現在の総延長は約35キロに及ぶ。明治に東京へ首都が移ったことで産業が衰退した京都を近代化する狙いがあった。

 明治期の日本を代表する土木事業で、当時の京都府の年間予算の2倍規模の費用がかかったという。1885年に着工し、長等(ながら)山の地中を通る第1トンネル(2436メートル)は当時の日本最長のトンネルで、難工事となった。工事はほぼ人力が頼りで、90年に第1疏水が完成した。

 水は水力発電や産業振興に活用され、水路を物資を運ぶ舟や人が往来し、京都の産業や文化を支えた。91年には日本初の事業用水力発電所「蹴上発電所」が完成。現在も電力や飲用水の確保などに使われている。

 近年は、インクラインや南禅寺境内の水路橋など、疏水一帯は人気の観光スポット。今年6月には日本遺産に認定された。

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