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 千葉県柏市の社会人野球チーム「YBC柏」元監督で、東京都内の特別支援学校の教諭、久保田浩司(ひろし)さん(54)が「あの時の野球とあの子たち」(大学教育出版)を出版した。チームをまとめていく苦労と、時間をかけて生徒や保護者と心を通わせた経験を交互に綴(つづ)った。「二つの経験をもとに、教えることの本質は同じだと伝えたい」という。

 元高校球児の久保田さんは、大学卒業後、高校野球の監督として甲子園を目指そうと教諭となった。しかし配属先が養護学校となり、「野球ができない」と戸惑いをおぼえた。何年かして転勤すれば、次の学校で甲子園を目指せると考える日々だった。

 転機は2年目に訪れた。野球クラブという名の、実際はソフトボールをする生徒たちの顧問を引き受けた時だ。

 「先生、キャッチボールを教えて」。生徒の一人に頼まれた。やらせてみると、フォームはめちゃくちゃで、ボールはあっちこっちに飛んでいってしまう。足の動かし方や腕の振り方を教え続けて約1時間。生徒は一生懸命投げ続けるうちに、だんだんフォームがさまになっていった。ボールはまっすぐ、しかも遠くまで届くようになった。

 生徒がガッツポーズして喜ぶ姿に「やればできる」と心がざわついた。教え方に対する考え方が変わり、打者がどちらに走るか分かるように自分が一塁ベースに立って待っていたり、打った打者と一緒に走ったり、生徒目線の指導を工夫。その後転勤した別の養護学校では、指導したチームが大会で何度も優勝し、東京都一般社会人2部大会にも出場した。

 教壇に立つ一方で、昨年までクラブチームのYBC柏でコーチや助監督、監督を務めた。きっかけは、バッティングティー(台)に置かれた球を専用のバットで打つスポーツ「ティーボール」。活動を通じて元中日ドラゴンズの谷沢健一さんと知り合い、谷沢さんがつくった同チームに誘われたという。

 企業チームと違い、クラブチームでは選手らはそれぞれの仕事を持ったり、部費を払って参加したりする。YBC柏は全日本クラブ野球選手権大会で4強に進み、久保田さんが勇退した後の今年8月、強豪の企業チームにも勝利している。

 本で紹介されるのは、まだチームが発展途上の時期。高校や大学の野球部で華やかな舞台に立てず挫折を味わいながら、それでも野球を続けたいという選手たちとの奮闘だ。

 練習場所が急に使えなくなったり、企業チームに歯が立たずコールド負けしたり、練習試合を申し込んでも断られたり。「このころは練習に私を含めて4人しか来なかったこともあった」。病と闘いながらチーム復帰を目指す選手の姿や、柏市の職員と選手らが協力して新しい練習場を整備するエピソードなどが紹介されている。

 本で描かれる教諭としての姿は、障害のある子どもたちとの交流だ。素直だが怒りの感情を止められない生徒や、子どもの教育に熱心な保護者と向き合い、心を通わせる日々が綴られている。仮名の登場人物もいるため、「小説」というかたちをとっている。

 「一塁に走るときに手を抜く選手は、手を抜く何らかの理由があるので、それを理解した上で指導すると伸びる。障害児に教えることと社会人野球での指導は、方法が違うだけなんです」と久保田さん。定価1800円(税別)。全国の大型書店などで販売中。問い合わせは大学教育出版(086・244・1268)。(石原剛文)