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 7月の豪雨で浸水し、14人が犠牲になった熊本県球磨(くま)村の特別養護老人ホーム「千寿(せんじゅ)園」で、園の避難確保計画が定める避難行動が取られていなかった。当時いた複数の職員への取材でわかった。計画に記載された施設長や副施設長からの指示がなく、判断が遅れたという。警報発表時に駆けつけられる職員も約10人指定されていたが、浸水前に来たのは1人だった。

 避難確保計画の作成は、土砂災害防止法や水防法で義務づけられている。千寿園の計画は土砂災害に関するもので、運営する社会福祉法人が2018年4月に定めた。計画によると、村が避難準備・高齢者等避難開始を発表すると、配慮が必要な人たちの避難誘導を始め、避難勧告・指示や大雨特別警報が出ると、全体の避難誘導に全職員であたるとしている。

 村は災害発生前日の7月3日午後5時に避難準備・高齢者等避難開始を発表。午後10時20分には避難勧告、千寿園のある渡地区で球磨川が氾濫(はんらん)危険水位を超えた4日午前3時半には避難指示を出した。気象庁は午前4時50分、大雨特別警報を発表した。

 だが、取材に応じた複数の職員によると、関連施設も含め当時5人いた職員はおむつ交換などの業務に追われ、こうした情報を把握できなかった。激しい雨に危険を感じ、入所者を起こし始めたのは4日午前4時ごろ。その後、土砂災害を警戒し、同じ敷地内の斜面から遠い建物へ移動した。避難確保計画では避難先も決まっていたが、外出が危険な場合は「施設内での避難」としていた。

 また計画では、施設長や副施設長は職員を指揮し、人命を確保するよう求められている。ある職員は4日午前4時以降、副施設長に3回電話。午前5時ごろには、園の東側を流れる球磨川支流の水位の上昇を報告し、「ギリギリまできています」と伝えたが、「しばらく様子をみましょう」と言われ、具体的な指示はなかった、と話す。

 園には約80人の職員が勤めており、計画には警報発表時などに駆けつけられる「指定職員」が約10人明記されていた。だが、そのうちの1人は「自分が指定されていることを知らなかった」。別の指定職員は「上司から連絡がきたら駆けつけることになっていたが、連絡はなかった」と明かした。夜間集まった職員はおらず、浸水直前の午前6時ごろに1人が来た。

 最終的には現場の職員が避難を判断し、近隣住民の協力も得て4日午前6時半ごろから建物の2階へ入所者を移動させたが、その途中、車いすの入所者らが残る1階が浸水した。ある職員は「指示がないのに避難できない。当直の職員だけでは手が足りなかった」と話した。

 朝日新聞は7月下旬、副施設長に取材を申し込んだが、「弁護士に任せている」と断られた。園の代理人弁護士は「当直には消防OBの職員がおり、避難の判断はスタッフに任せていた。副施設長は園に向かおうとしたが、(浸水していて)たどりつけなかった。避難確保計画の内容については書面で配布して職員に周知し、年2回は避難訓練を行っていた。当日の指示の適否については園側で判断できるものではなく、今後の検証で第三者に評価いただきたい」と説明している。(渋谷雄介、山田佳奈、松本江里加)

入所者に対応、職員「余裕がなかった」

 計画通りに避難行動を取れなかった特別養護老人ホーム「千寿園」。職員の証言からは、介護の現場特有の難しさも浮かび上がる。

 7月3日から翌4日にかけて、千寿園では職員の携帯電話やタブレット端末が何度も鳴り響いた。避難勧告などの発表を知らせるエリアメールの受信音だ。

 園が避難確保計画で避難の判断…

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