高齢化が進み、「高齢の親」を「高齢の子ども」が介護するという世帯も珍しくありません。そう遠くないうちに子どもの自分も介護が必要になるかもしれない――。そんな不安から、97歳と70歳の親子はある選択をしました。
同じ建物の4階と1階で
毎朝、4階にある自分の部屋を出て、1階の母の部屋に顔を出すのが日課だ。「お母さん、行ってくるわね」。西方節子さん(70)はすず代さん(97)にそう声をかけて、アルバイト先へ向かう。
2人が住んでいるのは、川崎市高津区のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。2018年4月に入居した。すず代さんは要介護2、入浴や掃除などの介護サービスを利用しながら暮らしている。
西方さんが東京都大田区の実家で、すず代さんと2人で暮らし始めたのは10年ほど前。一戸建ての実家は、大工だったすず代さんの父が建てたものだ。
同居を始めたころ、すず代さんは足は悪かったものの自分で歩くこともでき、1人でたいていのことはできていた。西方さんは日中、バイトで家にはいなかったが、大きな問題は起きなかった。
ただ、しばらくすると、すず代さんが鍋を焦がすことが増えた。トイレも1人で行こうとするが、たどり着く前に漏らしてしまうことも幾度となくあった。認知症と診断され、日中も目が離せなくなるにつれて、西方さんもストレスがたまり、すず代さんにきつい言葉を投げかけてしまうように。「そろそろ施設を考えた方がいいかも」。頻繁に顔を出してくれる妹(60)と3年ほど前から相談し始めた。
検討したのは特別養護老人ホーム。当時は要介護3で入居の条件は満たしていた。ただ都内の入居待ちは2万人超。早期の入居は難しく、他の介護施設も探し始めた。
2人で探し当てたのが川崎市内の介護付き有料老人ホーム。すず代さんは父が建てた家に愛着があり、常々「一生ここがいい」と言っていたが、西方さんは「なるべくなら母の思いをかなえてあげたいとも思っていたが、これ以上は厳しいと思った」。すず代さんは家を離れることになった。
だが、そのホームでは入居者を食事以外の時間も食堂に集めて漫然と過ごさせるなど、西方さんが思い描いていた暮らし方と異なっていた。「このままでは母が弱ってしまうのではないか」と案じ、まもなく別の施設を改めて探し始めた。
そんなとき、妹が「良い機会だから一緒に入りなさいよ」と西方さんに提案した。
考えもしなかったが、入居後…