聞き手 編集委員・須藤龍也
「妄想を現実にする」ことを追い求める一人の研究者がいる。ソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)副所長で、東大大学院教授の暦本(れきもと)純一さんだ。暦本さんの研究を一言で言えば、ドラえもんの「どこでもドア」や「タケコプター」を具現化し、人の能力をテクノロジーで拡張すること。暦本さんは「朝日地球会議2020」のセッション「未来を創る『分身技術』 コロナ禍の世界を変える?」(10月14日午後2時~)に登壇し、最新の研究成果について話す。
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暦本さんは、人間とコンピューターの間をつなぐ「インターフェース」に関する日本を代表する研究者だ。スマートフォンの画面操作でおなじみ「マルチタッチ」の基礎となる研究などで知られる。コンピューターと人間とのつながりがなぜ、能力を拡張することになるのか。その発想や思いについて聞いた。
――研究テーマの「人間拡張」とは、どういうものなのですか?
「人の持っている運動や感覚、コミュニケーションなどの能力をテクノロジーで伸ばすこと、もう一つは、テレポーテーションといった現実には不可能と思うことを、ロボットなどを使って実現に近づけることです。後者は超能力みたいなものですが、リアルなところまでつなげる研究開発を進めて、最終的には人間に超能力を授けたいと思っています」
――「超能力」ですか?
「例えばコンピューターが頭の中にあって、人との会話や場面に応じて絶妙に知恵を授けてくれたら、みな賢い人間になれる。テクノロジーによって、直接人間の能力を拡張できたら面白いなと」
――着想のきっかけは?
「20年ほど前に、歌舞伎座で『番町皿屋敷』を観劇しました。そこで、(舞台の進行に合わせてあらすじや配役、衣装、道具、歌舞伎、文楽の独特な約束事を解説する)イヤホンガイドを試しにつけてみたところ、非常に感動したんです。これを聞いている瞬間、私を『歌舞伎通』にしてくれる。周りからは、歌舞伎に詳しい人に見える。これは未来のインターフェースだ、と思って感動しました」
「あとで調べてみたら、イヤホンガイドは芝居のペースに合わせてテープを再生していたんですね。芝居というコンテクストにタイミングよく情報を出すことを考えている人がいる。こうした仕組みを完全に自動化すれば、まさに自己の能力を拡張する存在といえるのではないか、と」
――コンピューターと人間の「融合」ですね。
「専門的には『自己主体感』と…
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