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 新型コロナ禍で、利用者が1人でも感染すれば休業を余儀なくされることが多い高齢者施設。だが、対策を徹底していたからサービスを続けられた例もある。そうした「新しい介護様式」を知ってもらおうと、介護現場に横のつながりが生まれている。

 9月のある日の午前。富山市の高齢者施設「あしたねの森」の入り口に、送迎車から降りた利用者約20人の列があった。列の先には簡易手洗い所が2台。職員のそばで丁寧に手を洗い、アルコール消毒をしてから施設内に入っていく。

 施設は1年分の消毒液を備蓄している。入浴時には利用者はマスク、介護職員はマスクと保護メガネを着用。食堂のゾーニングも工夫する。感染対策の徹底が難しい認知症の利用者のお気に入りの席を先に決め、他の利用者を配置していく。

 「感染症対策はしすぎるくらいでいい」。施設の介護福祉士、網繁樹さん(43)は言う。市内で医療法人や三つの介護施設などを運営する社会福祉法人「アルペン会」でデイサービスを統括する。

 網さんらが対策の徹底にこだわるのは、4月の苦い経験があるからだ。富山市内の老健施設や病院でクラスターが相次ぎ、アルペン会傘下の全介護施設も4月下旬から1カ月休業した。当時は消毒液やマスクが不足し、感染拡大防止の対策は不十分。利用者の安全を考えた選択だった。

 休業中は毎日、利用者全員の自宅に電話をかけた。数日経つと体力が落ち、認知症が進む人が出てきた。仕事を抱えて介護をする家族の話を聞き、心が痛んだ。「社会には止めてはいけないサービスがあると思いました」

 感染者が出てもサービスを続ける方法はないのか。

 休業期間中、網さんらは徹底した感染症対策を進めることにし、利用者や家族に理解を求めた。当初は「息苦しい」と抵抗を感じる人が多かった浴室でのマスク着用もだんだん受け入れられた。

 8月中旬。利用者の男性の感染が判明した。その施設は1日平均55人が利用しており、別の施設との間で職員の行き来もあった。「ついにきたか」。報告を聞いた網さんは、すぐに言い聞かせた。「サービスを続けることが使命だ」

 速やかに市保健所に利用者や職員のリストを渡し、取り組んでいた対策を説明。すると、保健所の職員は「対策がしっかりしており濃厚接触者はいない。休業する必要はない」と応じたという。接触の疑いがあった職員と利用者計18人の体調を観察しつつ、サービスを続けた。

 「どの対策が本当に正しいのか、どこまでやれば良いのか、分からないことは多い」。そう話す網さんは現在、施設でカラオケを再開できないか検討している。周りに人がいる状況で歌うことが、高齢者の心身の健康に役立つと考えるからだ。「やめる、止めるは簡単。ウィズコロナの時代は、やめずに続ける努力と工夫が必要だと思います」(田島知樹

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 感染症対策や新型コロナ患者が出た際の対応から現場の日々の悩みまで、介護従事者や医師、看護師らが気軽に話し、経験を共有するための「とやま安心介護ネットワーク」(TAKN)が5月にできた。

 呼びかけ人の一人で富山市のケアマネジャー、野村明子さん(56)は「縦割りの介護の世界で横のつながりを作りたかった」と言う。

 月2回ほど開く「Zoomミーティング」には30人近くが参加し、現場の悩みや工夫を共有している。9月のミーティングでは、網さんがアルペン会の取り組みを紹介。浴室でのマスク着用などの対策を説明したところ、「どのようなマスクを使うのか」といった質問もあれば、熱中症のリスクを案じる声も出た。野村さんは「施設ごとの事情もある。現場で気軽に話し合えたら」と話す。

 ミーティングのほか、LINEアカウントで個別相談に応じたり、メンバーの医師や看護師らが介護施設を訪問し、感染症対策をアドバイスしたりしている。

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