生徒数の減少に悩む学校が、全国からの生徒獲得に乗り出している。約5900人が暮らす岩手県葛巻町にある唯一の高校・県立葛巻高(木村基校長、131人)が県内で初めて山村留学制度を導入してから6年目。今年度は過去最多の16人がやってきた。

 校舎から徒歩10分ほどの寄宿舎に、授業や部活動を終えた山村留学生が続々と帰ってきた。「おかえり。今日はどうだった?」。寮生活をサポートするハウスマスターが出迎える。

 食費や光熱費が込みで県外生は月2万円、葛巻町以外の県内生は月3万円。昨年5月に完成したこの寮で、首都圏のほか、新潟や愛知などから来た29人の留学生が寝食を共にする。埼玉出身の小林愛佳さん(1年)は「自分で身の回りのことをできるようになり、山村生の仲間とも協力できるようになった」と話す。

 町では少子高齢化が著しく、町民に占める65歳以上の割合は47・9%(昨年10月時点)と県内で2番目に高い。葛巻高は1980年の406人をピークに生徒数が減少。町は「町から高校がなくなれば人口減少が一気に進む」と危機感を強め、2015年に入学者を町外からも募る「くずまき町山村留学制度」を始めた。

 最大の魅力は、授業の傍ら、町の基幹産業である酪農やワイン産業、町のクリーンエネルギー事業も学べること。埼玉出身の舞原稜大くん(1年)は「同級生の実家でも酪農を体験できた。豊かな自然の中で、ここでしか出会えなかった人や経験ばかり」と目を輝かせる。

 敷地内には葛巻高生が無料で通える町営塾もあり、塾講師は高校教員と連携して自習を支援。2年次からは進学と就職の2コースに分かれ、一人ひとりきめ細かい指導を行う。

 町は町内3中学校との中高一貫教育に力を入れており、葛巻高の約8割の生徒が3中学校の卒業生だ。中高6年間を通じて継続的な指導を受けられる半面、コミュニティーが限られるという課題があった。留学制度による交流を通じ、学習面での伸びなど、これまでにない成長を感じさせる生徒も少なくないという。町の委託で山村留学のPRなどを手がける山谷淳也さん(41)は「生まれ育った環境が違う生徒たちが、互いに刺激を与え合い、いい化学反応が起きている」と話す。

 葛巻高を卒業した山村留学生はこれまで7人。葛巻で経験した酪農の学びをさらに深めたいと大学に進んだり、県内の観光業界に就職したりした人もいる。卒業生が友人を連れ、葛巻を訪れることもあり、木村校長は「将来のため『葛巻のファン』を増やすことは大切」と期待する。

 これまで東京で開いていた学校説明会はコロナ禍でオンライン開催となったが、週末には町や学校の見学者が全国から訪れる。地域を支える人材が不足する中、どう産業を振興させ、雇用や将来の関係人口の拡大につなげていくか――。木村校長は「山村留学は、多くの課題を抱えた社会の『縮図』のような場所で学べる貴重な機会。町の未来を担う人材づくり、そして町おこしにつなげていきたい」と話す。(太田原奈都乃)

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