[PR]

 切ない告白を聞いたのは、10月最初の週末、さいたまスーパーアリーナで行われたフィギュアスケート「ジャパンオープン」の公式練習の後だった。

 「僕のスケート人生で、最後のフリーになる。今季で終わるか、もう1シーズン滑るか……」。グランプリ(GP)シリーズ出場経験もある日野龍樹(りゅうじゅ)(中京大)は突然、少なくとも来季で引退する決断を下したことを明かした。

 理由を問うと、力なく笑って「疲弊ですかね」とひと言。「ノービス(小学生)の頃から練習も試合も頑張ってきて、もう20年くらい毎日やってきて。(その間に)同期も後輩もみんなやめていきますし。本当に、取り残される寂しさっていうのがかなり強くなってきて……」

 すり減った心の内を語った上で、「体の限界も見えてきて、『最後だから』って自分に言い聞かせたら、『あと1、2年だったら頑張れるかも』と。ギリギリの身体的、精神的状態まで来ているので」。

毎週水曜日の朝に、フィギュアスケートにまつわる話題をお届けします

 現在、25歳。同学年には、五輪2連覇の羽生結弦(ANA)、平昌五輪代表の田中刑事(倉敷FSC)がいる。日野も、2人とはノービスから競い合ってきた。2012年に全日本ジュニア選手権を2連覇。16年にはGPシリーズNHK杯9位、全日本4位。羽生には及ばなくても、残してきた足跡は胸を張っていい。ただあと一歩、殻を破りきれずに、ここまで来た。世界一に輝いた同い年を横目に、自らの可能性に区切りをつけようという気持ちの複雑さは、簡単に推し量れるものではないだろう。

 今季、自身最後と決めたフリーには、映画「トゥルーマン・ショー」のピアノ協奏曲を選んだ。06年トリノ五輪銀メダルのステファン・ランビエル氏(スイス)が以前使用した曲で、「いつか使えたらいいな。でもまだ自分には早い」と長年温めていたという。最後のプログラムを決める時、「この曲しかなかった。やっと使えるうれしさを氷上で出したいし、僕だから滑れるというものをしっかり表現したい」。

 ジャパンオープンでは、冒頭の4回転トーループで転倒。その後もミスが相次ぎ、120・37点と伸び悩んだ。出場した男子4人中3位。この大会は団体戦のため、おどけたように「(チームが)負けたのは僕のせいなんで、この場を借りて謝罪したいと思います」と振り返った。

 同じ週末、茨城県で開かれていた関東選手権で、17歳の鍵山優真(星槎国際高横浜)がフリーで188・75点をマークしていた。ショートプログラム(SP)と合わせて287・21点で優勝。国際スケート連盟(ISU)非公認大会のため参考記録ながら、合計では世界歴代5位相当の高得点だった。

 今季からシニアに参戦する新鋭が会心の演技で自信を深める一方、限界を悟ったベテランはリンクを去る決意を固め、滑っている。様々な思いが交錯する中、北京五輪のプレシーズンが幕を開けた。(吉永岳央)