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 新型コロナウイルスに入所者と職員計92人が感染し、入所者17人が亡くなった札幌市北区の介護老人保健施設「茨戸(ばらと)アカシアハイツ」。4月25日の最初の感染からクラスター(感染者集団)の収束まで2カ月余りを要した。札幌市が公表した検証報告書では、感染の第2波に見舞われ医療態勢が切迫するなか、またたく間に施設内に感染が広がり、情報把握や看護・介護職員の確保が難航したことが明らかになった。

 そのとき、現場はどうだったのか。教訓はなにか。施設を運営する社会福祉法人「札幌恵友会」理事の鶴羽佳子さん(52)と、診療支援にあたった静明館診療所(札幌市中央区)の医師大友宣さん(49)に聞いた。(芳垣文子)

札幌恵友会理事 鶴羽佳子さん

 介護や看護は入所者に密着する仕事なので、いったん感染が起きるとあっという間に広がります。当初、アカシアハイツの近くにある系列施設で体調不良者が出たとき、いまならすぐPCR検査に回されるケースでも、なかなか検査に結びつかず、結果として対応が遅れた面は否めません。

 感染の広がりとともに看護師、介護職員が不足し、家族の反対で出勤できない職員も出ました。3回の食事が2回になったり、入所者の入浴を断念したりした日もありました。人手を補うため管理職が現場に入ったり、感染拡大を理由に清掃業者が来てくれずに職員が清掃作業に当たったりしたこともあります。

 法人から市に入院を何度もお願いしましたが、調整がつかないまま施設内で12人が亡くなりました。入院がかなわなかったこと、また入院先で亡くなられた5人の方についても、感染しなければと思うと、本当に申し訳ない気持ちです。ご遺族にとっては容体の急変や、十分なお別れができなかったことなどへの割り切れない思いがあると思います。できる限りの説明を尽くしたいと考えています。

 今後、再び感染が起きないとは言い切れません。日々の感染対策を徹底するしかない。感染が起きたときに出勤できる介護・看護職員の把握、入所者と職員の体調管理の一元化などを進めています。感染者が出たら絶対広げない、仮に起きたらどう動くかということを常に頭に置いて、今回の教訓を生かしていきたいと思います。

静明館診療所医師 大友宣さん

 4月末に札幌市保健所から協力依頼があり、5月初めから診療支援を開始しました。「わかったときには感染が広がっていた」という状態で、災害現場に近い状況だったと思います。

 5月3日には施設の看護職員が1人も出勤できない状態になっていました。入居者の健康状態がわかる看護師がいないなかで診療するのは相当厳しく、私自身途方に暮れ、息苦しさを感じることもありました。

 職員の中には自宅に帰れず車の中で寝泊まりする人もいたと聞いています。みな疲れ切って余裕がない状態でした。

 数日あるいは数時間以内に容体が急変して亡くなる入所者もいました。アカシアハイツはもともとみとりの経験が多いわけではないようでした。職員にとっては精神的にも非常に大きな負担だったと思います。

 支援の内容は、診療指針を作ったり、応援看護師を派遣してもらうため関係団体との調整に当たったりしました。また、職員の介護負担を減らすため、ふだんの薬の種類を限定して必要な薬を処方し直し、服薬の減量を行いました。

 病状の進行が急速であり、入院しても救命は難しかったかもしれない。いずれにしても、施設側と札幌市は遺族に丁寧な説明をしなければなりません。

 高齢者施設で集団感染が起きたときは、早急に現地対策本部を設置し、医療・看護、介護の体制を整えることが重要です。介護崩壊は回復が難しく、なんとしても避けないといけません。感染予防、もし感染が発生しても被害を最小限に食い止めるための備えをふだんからすることが非常に大切です。