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 三重県名張市赤目町丈六の丈六寺に、鎌倉時代の石造五輪塔が立つ。その修復工事が始まった。着手したのは市内で石材会社を経営し、「現代の名工」にも選ばれたことがある石彫工の谷本雅一さん(44)。欠けた部分を同質の石で埋めるという文化財では例の少ない技法を用い、創建当時に近い姿によみがえらせる。

 五輪塔には「正応4(1291)年」と読み取れる刻銘があり、東大寺初代別当・良弁僧正(ろうべんそうじょう)を供養したものと伝わる。平安期ごろから名張には、東大寺の荘園「黒田荘」があり、現在も東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)で使う松明(たいまつ)を名張から寄進するなど、ゆかりが深い。五輪塔はそんな東大寺への信仰を示す史料の一つといえ、市内最古の五輪塔として市指定有形文化財にもなっている。

 花崗岩(かこうがん)で造られた五輪塔は高さ2・34メートル。時期は不明だが、近隣から寺に移設されたとみられる。矢持宝裕住職によると、多数のひび割れや石が大きく欠けた部分が数カ所あって劣化が進み、地震などで大きく損傷する恐れがあるという。

 そこで、修復工事の指導を奈良県大和郡山市文化財保存活用係の山川均主任らに、また施工を谷本さんに依頼した。修復は、レーザーを使った3D計測器で詳細な塔の形を記録し、分解して作業場に運搬。石材を強化する薬剤を塗布し、欠損した部分には同質の石材を接着して補塡(ほてん)する。表面は鎌倉期と同じように鉄製ののみを使って手彫りし、元の姿に復元する。

 山川主任によると、木造の文化財は欠損部分を作り直して取り換えることが一般的だが、石造物は技術者が少ないことなどから、指定文化財を今回の方法で修復するのは珍しいという。

 五輪塔は3日に分解、搬出された。これまで文化財の修復にも取り組んできた谷本さんは「後世まで美しく残せるよう精いっぱいやりたい」と意気込む。矢持住職は「大事な鎌倉期の塔をよみがえらせ、より多くの人に見てもらいたい」と期待する。

 修復作業は来年3月末まで続く。総事業費約500万円のうち名張市からは32万円の補助金を受けたが、一般からも寄進を受け付けている。問い合わせは丈六寺(0595・64・3226)。(吉住琢二)

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