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 東日本台風で被災した長野市長沼地区で、30歳の元青年海外協力隊員が福祉の力で復興を後押ししようと奮闘している。7カ月前まで東ティモールで障害がある子どもの支援に関わっていたが、新型コロナウイルス感染拡大で断念。新天地の長野で福祉と被災地をつなげる活動が軌道に乗り始めている。

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 「上手、上手! うまく刈れてるよー。無理しないでね」

 長野市穂保の貞心寺で今月7日、草刈り作業に励む市内の福祉事業所の利用者ら4人に、千葉県鎌ケ谷市出身の元協力隊員、井上洋輔さんが声をかけていた。4人は学校で農業を学んだといい、草刈り機を慣れた手つきで操る。被災以来、手を付けられず雑草が伸び放題だったが、2時間ほどで作業が完了。寺の中村君代さん(72)は「本当に助かります」と喜んだ。

 県社会福祉協議会の職員として働く井上さんは、被災地の課題や要望を聞いて回る毎日だ。「被災した寺が草刈りで困っているようだ」と耳にし、農作業を得意とする福祉事業所と引き合わせた。

 大学で福祉を学んだ井上さんは、自閉症などの子どもたちの生活支援をするNPOで働いた後、タイを旅行中、福祉事業所で精緻(せいち)な刺繡(ししゅう)が施されたマットを作る人たちの姿に感銘を受けた。「障害があってもそれぞれ得意分野がある」。その力を存分に生かす環境を作りたいと、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊に参加した。

 2017年からスーダンや東ティモールの特別支援学校で働いた。そこで学んだことは「課題を見つけて即行動」の必要性だ。違う障害がある子どもたちが学校でひとくくりにされている実態に違和感を持った井上さんは、学校に掛け合ってクラス分けを実現。現場の先生たちに認められた経験が忘れられない。

 そんな井上さんに新型コロナ禍が直撃する。JICAが隊員の引き揚げを決め、今年3月に帰国せざるをえなくなった。

 将来の見通しが立たないなか、元隊員向けの求人で長沼の復興支援に福祉人材が求められているのを見つけた。「自分の経験はきっと復興に生きるはずだ」

 6月に長沼に来てわかったのは、とにかく人手不足ということだ。

 障害者が農業や復旧に向けた作業を継続的に手伝える仕組みを作れないか――。こう考えた井上さんは、農家でリンゴの収穫などを手伝いながら地域住民と交流して実際の課題を探り、得意分野を知ろうと福祉事業所を精力的に回り始めている。初めて課題解決が形となったのが寺の草刈りだった。

 井上さんは言う。「僕は福祉と復興のコーディネート役。しっかりとした橋渡しをしたい」。社協での任期は来年3月までだが、その後も復興に携わろうと考えている。(里見稔)

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