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 今年のノーベル医学生理学賞は、C型肝炎ウイルスの発見に貢献した3人の医学者に決まりました。

 かつて、輸血後に肝炎にかかる患者さんがたくさん発生していました。その一部はB型肝炎ウイルスが原因であることがわかり、感染対策がとられましたが、そのあとも輸血後肝炎は発生しつづけ、「非A非B型肝炎」と呼ばれていました。それがC型肝炎です。C型肝炎ウイルスは1989年に発見されました。非A非B型肝炎がなんらかのウイルスによって起こることはわかっていましたので、発見というより同定といったほうがいいかもしれません。

 私が医学部に入学したのが1990年、C型肝炎ウイルスが発見された翌年です。入学してすぐに医学を学ぶわけではなく、入学後2年間は教養部で一般教養を、3年生から医学部キャンパスで解剖学などの基礎医学を学びました。内科学を学びはじめたのは4年生のころだったでしょうか。授業ではもちろんC型肝炎のことを教えられますが、先輩からいただいた古い教科書や試験対策プリントにはまだ、非A非B型肝炎という言葉が残っていました。

 C型肝炎の主な害は肝臓の炎症そのものではなく、長い時間をかけて肝硬変や肝がんを引き起こすことです。日本の肝がんのうち約70%がC型肝炎ウイルスの慢性感染で、C型肝炎ウイルスに感染している人はそうでない人と比べて約35倍、肝がんになりやすいという研究もあります。肝硬変や肝がんに進行する前にウイルスを排除することで進行を防ぐことが期待できます。

 私が研修医のときは「インターフェロン」という薬が使われていました。インターフェロンはウイルスに感染したときに体内でつくられる物質で、免疫系に作用して抗ウイルス効果を発揮します。C型肝炎の治療では外部からインターフェロンを投与することでウイルスの排除を目指します。頻度の高い副作用として発熱、悪寒、全身の倦怠(けんたい)感があります。ちょうど、インフルエンザウイルスに感染したときのような症状です。解熱剤をあらかじめ投与するなどの対策はとりますが、人によってはたいそうつらく、治療を中止せざるを得ないときもありました。

 他にも血小板減少や精神症状などの副作用があり、うまく用量を調節して治療を継続するのが内科医の腕のみせどころでした。ただ、インターフェロン治療をやりとげても全員が治るわけではなく、一部にはつらい治療に耐えたにもかかわらず、ウイルスが消えない患者さんもいました。インターフェロン治療は改良され、週に1回の注射でよくなり、内服薬を併用することで治療効果が上がりましたが、それでも治りにくいタイプではウイルス排除に成功するのは50~60%程度でした。

 免疫系に作用するのではなく、ウイルスに直接効く「直接作用型抗ウイルス薬」が使用できるようになり、治療成績は改善しました。直接作用型抗ウイルス薬が日本で使えるようになったのが2011年です。当初はインターフェロンと併用していましたが、2014年からインターフェロンなしの治療ができるようになりました。インターフェロンの副作用から解放され、注射ではなく内服で済み、治療期間も短く、そして、ほぼ100%がウイルス排除可能になりました。この30年間で、原因もよくわからなかった病気が、ほぼ治るようになったのです。今回のノーベル賞の対象になった研究をはじめとした多くの研究と、そして患者さんのご協力のおかげです。

 C型肝炎は症状がないことも多いです。せっかく治る病気になったのですが、感染していることに気づかないまま、肝がんが進行してはじめて診断されることもあります。これまで一度も検査を受けたことのない方はC型肝炎の検査を受けることをお勧めします。通常の生活を送っていればC型肝炎ウイルスに感染することはありませんので、一生に一度で大丈夫です。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。