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 特別養護老人ホーム「きしろ荘」(神戸市灘区)の元施設長(50)=5日付で退職=が朝日新聞の取材に応じ、無資格にもかかわらず、チューブで栄養を胃に直接送る医療行為「胃ろう」を自分で行ったり、同じく医療行為の「たん吸引」を職員にさせたりしていた、と証言した。「法に触れる認識はあったが、慢性的な人手不足だった」と釈明した。(遠藤美波)

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 元施設長によると、昨年4月ごろから、胃ろうを自分で処置するようになった。担当だった看護師2人の退職がきっかけだった。

 後任としてパートと派遣の看護師2人を採用したが、出勤は午前9時以降という契約だった。きしろ荘では、朝の胃ろうは午前7時半から。後任2人の出勤時間に合わせると、1日の介護計画が全て変わり、混乱が生じかねない。無資格での胃ろうは医師法違反に当たると認識していたが、「『自分がやらないと』と思ってしまった」。

 職員は元々、介護・看護担当と事務担当で計35人ほど。だが昨年4月から今年9月にかけ、約20人が次々と退職。採用が追いつかずに25人ほどに減り、当時約50人いた入居者へのケアがずさんになっていった、と元施設長は振り返る。

 たん吸引は今年4月から、無資格の職員に処置させるようになった。神戸市条例は、夜勤に入る職員のうち、たん吸引の資格を持つ職員を少なくとも1人配置するよう求めている。しかし月2、3回の夜勤は、無資格の職員しか配置できなかったという。

 入居者のケアプラン作成にも、無資格の職員を関与させたことを認めた。

 本来は介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成しなければならない。だが担当のケアマネが2018年12月に休職し、その後退職。翌19年の入居者約50人分のケアプランの作成が手つかずに。ケアマネの資格を持つ元施設長が今年5月にまとめて作成した際、手が回らずに無資格の職員1人に手伝わせたという。

 慢性的な人手不足に伴う不適切ケアは今年5月、職員の負担軽減のため入居者をほぼ半数の28人に減らすまで続いたという。

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 元施設長は不適切ケアの責任をとるため、運営法人側に退職届を出し、5日付で受理されたという。

 なぜ、介護水準が維持できないほど、きしろ荘で退職者が相次いだのか。元施設長はその背景について、運営する社会福祉法人「六甲鶴寿園」(神戸市灘区、岸本圭子理事長)幹部によるパワーハラスメントや職員への残業代の未払いがあった、と訴える。

 元施設長によると、法人幹部による職員への長時間の叱責(しっせき)が頻繁にあり、3~4時間に及ぶことも。謝罪を強いられることもあったという。

 また、残業時間の未払いも横行していた、と打ち明ける。法人側からの指示で、職員が申告した残業時間を、元施設長が少なく書き換えたこともあったという。施設の職員らが結成した労働組合によると、法人は今年3月と同9月、時間外労働の割増賃金を支払っていないなどとして、神戸東労働基準監督署から是正勧告されたという。

 きしろ荘では6年前にも問題点が指摘されていた。

 元施設長の証言や内部資料によると、2014年、夜勤中の職員2人が女性入居者の上半身裸の姿をスマートフォンで撮影し、LINE(ライン)で送り合っていた。監査した神戸市は性的虐待と認定し、改善を勧告した。

 勧告を受け、夜勤2人に加えて宿直1人を追加配置したが、次第に勤務が回らなくなった。今年3月ごろになると、元施設長も週5日ほど宿直に入らざるを得ない状態だったという。

 職員の労組は、先月末に開いた会見で「元施設長は加害者でも被害者でもある。運営法人は元施設長に責任を取らせようとしているが、実際には組織体質の問題だ」と批判した。

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 きしろ荘を運営する社会福祉法人「六甲鶴寿園」の岸本圭子理事長は朝日新聞の取材に対し、「現在いろいろと調査しており、取材は対応致しかねる」と文書で回答を寄せた。神戸市は8月から法人に対し、介護保険法に基づく監査に入った。市の担当者は「調査結果を受け、適切な処分を検討する」としている。

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